破断直後のEt cetera

 一人暮らしをしているという部長のうちはマンションで、戸数の少ない低層型だ。地下駐車場の電動ゲートが、スマホのタップ一つで、自動で開く。

 車を降りて、グレーの大理石のロビーを通りエレベーターに乗り込む。


「部長って、ハウスキーパーとか雇ってないんですか?」

「実家にはいるが、ここでは雇っていない。知らない人間に色々触られたくないからな。」


 片付けが苦手なのであれば、雇った方がいい気もする。午前様になることだってしょっちゅうなのだ。

 この先部長は、十二村製薬を背負って立つ人間として、体力的にも精神的にも負荷をかけられていくばかりなのだから。


「それに、仕事人間ってだけじゃ生きてけないしな。ある程度生活感を身につけるのも修行のうちだ。」

「そういうもんですか? お金があるんだから、掃除業者にくらい任せてもいいと思うんですけど。」

「御曹司だからって、自分の生活を人に任せるのは違うと思うからな。」

 
 エレベーターの中で、腕を組む部長がそうつぶやく。

 部長も部長なりに、仕事以外のことも考えて生きているのだと感じた。

 “御曹司”というだけで、自社の経営を何よりも最優先にしているイメージだった。

でも十二村部長は、そういった固定観念には囚われていないのだろう。


 私が自分の荷物を持ち直せば、部長がさり気なく持ってくれた。


「あ、りがとうございます。」

「ダメだな俺は。楢崎みたいに紳士じゃないし、面白いことも言えない。」


 突然悲観を口にする部長が、深い溜息を吐きながらエレベーターを降りていく。


 昨日部長は、私と楢崎課長の姿を見て本気で嫉妬してくれたのだろうか?

 私に詰め寄る部長の、寂しげな声と辛そうな表情が、鮮明に思い出される。

『大路、楢崎のことが、好きなのか?』

 吉香のこともそうだ。

『お前の方がよっぽど俺を煽っているだろう。昔っから、『きっか』といちゃついてるとこばっか俺に見せつけやがって。』

 あれは、狡いと思う。

 これまで私の方がずっと、何倍も、何百倍も、部長に近寄る女性に嫉妬してきたのだ。

 それなのに、昨日の言葉で翻弄されてしまう。部長も私と同じように、ずっと嫉妬という感情を抱いていたのだとしたら。

気持ちが理解できるせいか、少し胸が苦しくなった。




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