破断直後のEt cetera

(信じられない……。私、本当に詩太さんに抱かれちゃったんだ。)

 両思いになれたことすら信じられないのに、まさか大好きな人に初めてを捧げるなんて、こんなに幸せなことがあっていいのだろうか?

 昨夜の鮮明なあれこれを思い出す前に、朝ご飯の準備をしようとキッチンに立つ。

 一人暮らし用の冷蔵庫には、必要最低限の食材しか入っていない。

 ザッハトルテの材料と一緒に持ってきていたパンと、付け合わせに簡単なスープを作ることにした。

 有名なパン屋さんで買った海藻バゲットに、家で作ってきたアプリコットジャムとクリームバターを添えて。

 スープは粉末の鶏ガラスープをベースに、卵とキャベツ、そして細切りにした生姜で味を整えた。

 
 テーブルに置いたスマホの振動が、カレンダーのタスクを知らせる。

 今日はバレンタインデーだ。

 12年越しに、詩太さんにチョコを渡せるらしい。

 嬉しさを噛みしめ、早速ザッハトルテ作りに取りかかる。

 材料だけでなく、お菓子作りに必要な道具もしっかり持ってきているのだ。



 数時間後。ベッドルームを覗けば、詩太さんの寝息が聞こえ、胸の奥をぎゅうっと掴まれたかのように苦しくなる。幸せな苦しさだ。 

 年末は、休みが取れないほど忙しかったと聞いている。

 こんなにゆっくりと休みが取れたのは珍しいのかもしれない。
 
 エプロンを取り、こっそりベッドルームに入れば、逞しい腕をベッドからだらんと垂らす詩太さんの姿がある。

 縁に座り、そっと詩太さんの髪を撫でて、昨夜の余韻に浸る。

 初めてこの人を好きになって良かったと思えた。

 何度も何度も私の名前を呼んで、私を優しく扱おうとする彼の温もりが、全身にくまなく残されている。

 自分の欲求を必死に抑え、顔を歪ませる姿が、愛おしくてたまらない。

 そんなことを思い出し、ニヤケ顔が止まらない私は、彼が『好きすぎる』というよりも、究極の変態かもしれない。    





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