破断直後のEt cetera
12.兄の言うことは一理あるけれど
それからしばらくは、魂が堕落したかのように幸せな日が続いた。
どんなに難しい仕事が待ち受けていようとも、会社に行けば詩太さんに会えるのだ。
お互いマメにメッセージアプリで確認して、10分でも会える時間を作り、リフレッシュスペースの一番奥で束の間の幸せを噛みしめていた。
「未怜、コーヒーと俺のキス、どっちにする?」
恋人になってからというもの、詩太さんはこれでもかというくらい、私に甘い言葉をくれるようになった。
社内だというのに、時に詩太さんにキスされることもある。
まだまだ慣れないキスに、動揺したままグローバル部に戻れば、天王寺さんに頬の火照り具合を指摘されることもあった。
次第に季節が移り変わり、3月に入ったある日のこと。
現実の波が押し寄せる。
なんとボストン総合病院の研究論文について、現場の研究員と開発者たちが試行錯誤を繰り返した結果、実現できることとなったのだ。
赤堀部長は、来週から現場の統括者と檜佐さんを連れて、再びボストンに飛ぶことが決まっている。
その出張準備とプレゼン資料を作成するためのToDoリストが手渡された。
さらにそれとは別に、釜山の医薬品メーカーとの共同開発の進行に、年度末の決算に関わる報告書の山。
泣きそうになほど忙しくなり、詩太さんに会えなくなってしまったのだ。
営業本部長である詩太さんも詩太さんで、年度末に向けた会議で大忙しだった。
「明日の釜山とのオンラインミーティング、大路さんにも参加してもらうからよろしくね?」
「は、はい!」
「ほら、報告書の手が止まってるよ。」
「あ、すみません!」
「嘘だって。あはは。」
怒涛の忙しさだというのに、笑顔で仕事をしているのは楢崎課長くらいだろうか。ほんとにこの人はいつ見ても楽しそう。
でも私も私で、今のこの忙しさは嫌いじゃない。
詩太さんに会えないのは寂しいけれど、自分に山のような仕事を与えられているということは、それだけ自分が役立っているからだ。
そう思うようになれただけで、自分が成長している気分にもなれた。