悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~
 「『許さない』って、どうするの? もしかして歯向かう気かしら」
 「それは」
 「あたしに歯向かうってことは、陛下に歯向かうってことよ。その覚悟はあるの?」

 ロベリアから笑みの気配が消える。部屋の空気が一段冷えた気がした。

 ごくりと喉が鳴る。
 父は逆らう者には容赦しない。僕はそれを嫌というほど知っている。
 だからこれまで大人しく従ってきた。従うしかないと、思い込んできた。

 だが。
 アイリスの笑顔が脳裏に鮮やかによみがえる。
 泥も煤も気にせず微笑む、陽だまりのような人。誰の目にとまらなくても、額に汗して動かす小さな手。

 あの温度を、誰にも壊させたりはしない。

 「ある」

 視線を逸らさずに言い切る。自分でも驚くほどに力強い声だ。

 ロベリアは一瞬だけ目を瞠り、真意を探るようにじっと僕を見た。
 たじろぎそうになるほど真剣な目だ。呼吸が浅くなる。それでも一歩も退かない。

 舐め切って見下してきた相手に、反抗される気分はどうだ。
 生意気と嘲笑うか。思い通りにならずに癇癪を起こすか。
 どちらであっても、絶対に撤回はしない。

 鼓動がうるさいのは恐怖か高揚か。
 アイリスを守る。誰かに逆らってでも、彼女だけは。
 初めて、はっきりそう思った。

 「――そう」

 ロベリアはいつものように馬鹿にすることもなく、短くそれだけ答えた。

 「用が済んだなら、出て行って」

 それから感情の見えない平坦な声音で言って、顎先をドアの方に向ける。

 軽く一礼し、部屋を辞す。
 廊下に出ると、夜の空気が肺に冷たかった。手のひらは汗で湿っている。
 握りしめ、開いてみる。震えは止まっていた。

 啖呵を切るだけでは終わらせない。

 僕は階段を降りながら、今ようやく自分の足で歩けている気がした。

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