悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~
 「陛下のことより愛しの殿下? あなたって本当に浅はかで幼稚ね」

 嘲りを滲ませた声に、プツッとこめかみのあたりで何かが切れる音がした。

 「おまえなど、陛下の気まぐれを利用して成り上がっただけの――」

 ロベリアはふっと息を笑いに混ぜた。

 「勘違いしているようだから教えてあげる。ロエル殿下は『陛下の持ち物は自分のもの』だと思っているだけ」

 挑発するような視線が胸に刺さる。

 「陛下のものだから手を出した。陛下が執着しているから自分も。まるで人のおもちゃを欲しがるワガママな子供ね。結局あの人は誰のことも愛してなどいない。自分だけが大事なのよ」
 「うるさい!」

 衝動的に怒鳴りつける。

 ロベリアが口を閉じた。
 いつもの薄ら笑いが消えて、無表情になる。

 室内に束の間の静寂が訪れる。耳鳴りがした。

 違う。違う、違う、違う。

 確かに新しいものに目移りする子供のようなところはあるけれど、殿下はわたくしを愛している。
 わたくしだけが特別だった。
 わたくしには分かっている。殿下のことは全部。彼を分かってあげられるのはわたくしだけなのに。

 「お、おまえに何が分かるというの⁉ おまえさえ現れなければ殿下は、後宮は、わたくしのものだったのに!」

 なのにどうしてこの汚らわしい娼婦が、まるでわたくしより殿下のことを知っているような口をきくの。

 「……何を言っても無駄ね。バカバカしい」

 ロベリアが吐き捨てるように言う。
 その瞬間、胸の奥底で、ごうごうと音を立てて炎が燃え上がった。

 「おまえさえいなければ……おまえさえ消えれば……」

 口の中で何度も繰り返す。

 視界の端で、胸の炎が顕在化したような揺らぎが見えた。
 視線が吸い寄せられる。美しい細工の真鍮製の燭台。陛下からの贈り物だろう。

 ずしりと重たいそれを、血が乾き始めた手で掴む。
 金属の冷たさが掌に貼りつき、骨が軋むほどの力がこもる。

 殺してやる。

 「――これは天罰よ」

 低く、喉の奥で唸る。足が半歩、前へ出た。肘がしなる。肩が軋む。

 振り上げた燭台が、重罪人を照らし出すようにきらめいた。
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