悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~
 イレーヌの安否も気にかかるが、何よりロベリアが心細いのではないかと心配だった。

 なぜそんなことを思うのだろう。分からない。
 ロベリアはもう動揺しているようには見えなかったし、噂通り強い女性に見える。
 殿下が相手でも堂々としているし、一人残されても鍵さえかけておけばイレーヌが再度襲撃してくる心配もない。

 そう思うのに、強気な表情を崩さない彼女が、なんだか小さな女の子に見えてしまうのだ。

 「ダメよ。痕が残ったらどうするの。今すぐ連れてって」

 私の言葉を無視して、ロベリアが強い口調で殿下に言う。

 「……逃げるなよ?」
 「あたしは被害者だもの。逃げる必要ないでしょ」

 殿下の念押しに、ロベリアが肩を竦めて笑ってみせる。
 少しの躊躇を見せた後、殿下は「わかった」と言って私に向き直った。

 「でも、私は――きゃっ」
 「失礼」

 納得しない私をひょいと抱き上げて、エミリオ殿下が照れたように言う。

 「じっ、自分で歩けます!」
 「無理をするな」
 「やるときはやるじゃない」

 囃し立てるようにロベリアが言って、親切にも閉まりかけのドアを通りやすいように大きく開けてくれた。

 「ごゆっくり」

 揺らさないよう滑らかに歩き出した殿下に、ロベリアがひらひらと手を振る。

 「っ、危ないことはしちゃダメよ!」

 これ以上は言っても無駄そうだと諦めて、せめてもとそれだけロベリアに告げた。
 まるで子供のようなつたない言葉に、ロベリアがぽかんと呆けた顔になる。

 「……はいはい。分かったわ」

 それから彼女は、おかしそうに笑った。

 その飾らない笑みに、私は強い既視感を覚えた。
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