悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~
 繊細な刺繍がすぐに赤一色に染まっていく。
 けれど彼女は気にした様子もなく、ぎゅっときつく結んだ。

 「ごめんなさい、汚してしまって」
 「そんなのどうだっていい。ちょっとアンタ」

 ロベリアは私と目を合わせることなく、殿下に視線を移した。

 「な、なんだ」

 アンタ呼びに反論することもなく、エミリオ殿下がぎこちなく返事をする。
 けれどその目はロベリアでなく私の怪我に固定されていて、思わず小さく噴き出してしまった。

 「……笑えるなら大丈夫ね。アンタ、この女を医務室に連れて行きなさい」

 チラリと私を見た後、ロベリアが殿下に命じる。
 庶民が第二王子にする態度とは思えないが、ロベリアだとなんだかしっくりきてしまう。

 それにしてもなんて美しい人なのだろう。
 こんなに近くで彼女を見るのは初めてだ。
 彼女が来てからもう何ヶ月も経つというのに、直接言葉を交わすのも今日が初めてではないか。

 だというのに、その横顔に、言葉に、ふと懐かしさのようなものを感じて戸惑う。
 なぜだろう。
 過去に彼女と会っている気がして落ち着かない。

 「なんっ、それは、おまえに言われずとも連れていくが、事情を聞いてからでないと」
 「私なら大丈夫です。一人で行けますから」

 私を心配する気持ちと、後宮を預かる立場と、板挟みになっている様子のエミリオ殿下に苦笑しながら答える。
 腕は痛かったが、耐えられないというほどでもない。
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