悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~
 嫌がらせ筆頭のヴェロニカでさえ仲良くなってしまった彼女だ。
 特に不利益を与えられたわけでもないロベリアを気にかけたとしても、不自然というほどではないのだけど。

 眉間にシワを寄せ、考え込むようにアイリスが口元に手を当て沈黙する。

 医官が医療器具を片付ける音が、静かに響いた。

 「――最初はただ、名前が一緒だな、と」

 やがてアイリスが探るような口調で話し始める。

 「名前?」
 「はい、ロベリアさんの名前が。故郷に残してきた妹と同じなんです」
 「へぇ。どんな子だったの」

 自然と表情が緩んでしまう。初めて聞く話だ。

 「いつも私について回って。少しお転婆で、食べるのが大好きなんです」
 「仲の良い姉妹だったんだな。歳はいくつ? 君に似ていた?」

 優しい顔で語るのを見て、妹への深い愛情を感じる。
 そんな場合ではないというのに、アイリスのことを知れるのが嬉しい。

 「二つ下です。私はそっくりだと思っているんですが、家族も周りの人も、妹本人さえ全然似てないって」

 よほど妹を愛していたのだろう。聞かれたアイリスも嬉しそうに答えてくれる。

 「ぽっちゃりしてたからかしら。そのままでも十分可愛かったけど……」

 懐かしむように語った後で、アイリスの表情がハッとしたように真剣なものへと変わる。

 「どうした?」

 心配になって問うと、彼女は縋るような目で僕を見た。どきりと心臓が跳ねる。

 「殿下、今から私、変なことを言うかもしれません」

 自分でも考えが整理しきれていないのか、アイリスの視線が揺れる。
 その視線を正面から受け止め、落ち着かせるようにゆっくり頷く。

 「分かった。話してくれ」

 それで安心したのか、彼女は背筋を正したあと、大きく深呼吸をした。

 「私、あの子を知っているかもしれません」

 もう、瞳は揺れていなかった。
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