悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~
 「ごめんなさい、不審者がいたわけではなくて」

 思い出したのだ。さっきの女官たちの噂話の中に、イレーヌが新人への嫌がらせを画策しているというものがあったことを。

 「まだ後宮の環境に慣れていないでしょうし、殿下からも気を付けて見てあげてほしいのです」

 あくまでも噂だけど、確実性は高い。
 イレーヌがこれまでも陛下のお気に入りに嫌がらせをしているのを皆知っている。
 私もちょっと前までその対象だったのでよく分かる。

 今、陛下の寵愛を一身に受ける彼女は、きっと私以上に露骨な嫌がらせをされるに違いない。
 そう思うと心配だった。

 「分かった。女官同士の仲裁も僕の仕事だ」

 私の話を聞いて、殿下は面倒がる素振りも見せずに力強く頷いた。

 遠くから、女官たちの話し声が聞こえてくる。洗濯係の子たちが戻ってきたのだろう。
 殿下がチラリとそちらの方に視線をやってから、また私に向き直る。

 「では僕はもう行くよ。君もその、気を付けて」
 「はい、ありがとうございます」

 陛下の寵愛から漏れた私には無用の心配だ。けれどその心遣いが嬉しかった。
 私は殿下を見送ってから、邪魔にならないうちに洗濯所を後にした。

 自室に向かう途中、また視線を感じた。
 今度は足を止めるより先に、勢いよく振り返る。
 曲がり角の影に、見慣れぬ女性が消えていくのが見えて眉をひそめる。

 ロベリア。

 自然とその名が脳裏に浮かぶ。初めて見る顔だけど間違いない。彼女こそがロベリアだ。
 その美しさはイレーヌを超えていた。

 今までの視線は、全て彼女だったのだろうか。
 だとして、なぜ私を?

 正体の分からないザワめきが、胸をサッと駆け抜けていった。

< 67 / 206 >

この作品をシェア

pagetop