悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~
 「『陛下はアイリス様を大層可愛がってらっしゃったのに』『ちょっと飽きたから、あなたみたいな下品な娘が珍しいのね』。そう言ってよく比較してくださるのよ。ありがたいわね」

 美しく笑いながら、苛烈な目の光は少しも隠せていない。

 「あなたもアイリス様の方がお好みのようね」

 ゆっくりと小首を傾げる仕草。それを愛らしいと思う男は吐いて捨てるほどいるだろう。
 だけど僕にはそれが、恐ろしいことへの前触れにしか思えなかった。
 まるでおまえは浮かれすぎだと言外に告げられているようだ。

 ごくりと喉が鳴る。

 「ねぇ、どんな方なのかしら。教えてくださる?」

 猫なで声でロベリアが問いかける。
 もしロベリアが、自分の立場を脅かす存在がイレーヌではなく本当はアイリスなのだと気づいたのだとしたら。

 「……アイリス殿のことを、知ってどうする」

 喉の奥に何かがつっかえる。声が震えた。
 誰かに歯向かったことなんてない言いなりの人生だった。
 だけど。

 「さあ……お友達にでもなろうかしら」

 ロベリアの唇が面白がるように弧を描いた。
 挑発とからかいが滲む声音。
 そんなこと、ちっとも思っていないような顔だ。

 奥歯をグッと噛みしめ、睨み返す。

 父上と兄上に抑えつけられて、とうに萎えたはずの闘争心が、底の方で呼び覚まされるのを感じる。
 僕は持っていたナイフをテーブルに置き、刃先をロベリアに向けた。

 「お前に話すことなどなにもない」

 これが今の僕にできる、せめてもの宣戦布告だった。
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