悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~
 廊下の向こうにはいつの間にか人だかりができている。
 ひそひそといやらしく声を潜め、自分は無関係みたいな顔で。

 「見てんじゃないわよ!」

 睨みつけ一喝すると、無遠慮な影たちが蜘蛛の子のように散った。
 ただ一人、少しも動じない女が真っすぐにわたくしの部屋に入ってきた。

 「失礼します、イレーヌ様。手当てをいたしますのでおかけください」
 「アイリス……」

 まるでさっきまでの喧騒なんてなかったみたいな清らかな声。

 アイリスは冷静そのものの顔で、薬箱を抱えて躊躇なくわたくしの手を取った。
 薬液を含ませた綿のひやりとした感触が、熱を吸っていく。

 「放っておいて」

 振り払おうとした指先を、彼女は静かに受け止めるだけ。

 「放っておいては化膿してしまいます」

 いい子の顔をして。清廉ぶって。
 自分だけが正しいとでも言いたげに。

 「……あなたのそういうところが嫌いよ」

 喉の奥で零れた声は、我ながらみっともないものだった。
 それでも彼女は眉一つ動かさず、器用に包帯を巻いていく。

 陛下に放っておかれても愚痴ひとつこぼさず、下女の真似事をして楽しそうに笑う女。
 理解不能だ。後宮女官に選ばれたのなら、目指す道は一つしかないというのに。

 ふと、ざわめきの向こうで布の擦れる気配がした。
 アイリス越しに扉の方に目をやると、ちょうど通りかかっただけみたいな涼しい顔でロベリアが立っていた。

 目が合う。
 彼女はこの部屋の惨状をまじまじと眺めて、呆れたとでもいうようにわずかに肩を上下させる。
 それから深く、退屈そうにため息をつくと、興味が失せたようにくるりと踵を返した。

 胸が灼かれるように熱くなる。

 ――あの女のせいで。

 嫉妬などというぬるい言葉では足りない。
 もっと濃く、重く、喉を焼く黒い液体のような感情が、静かに満ちていくのを感じた。

 ロベリア。
 お前を絶対に許さない。
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