悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~
 「許さない! このクソ女!」

 ガタンと大きな音を立ててヴェロニカが立ち上がる。
 まったく、淑女とは思えない立ち居振る舞いだ。これだから子爵家の娘は。

 「あら、そのお化粧よく似合っているわ」

 顔の半分以上を血に染め、憤怒の形相のヴェロニカをさらに挑発する。

 「黙れこの負け犬が!」

 短絡的な彼女は、案の定考えなしに殴りかかってきた。
 それを迎え撃つようにわたくしも拳を振り上げた。

 わたくしとヴェロニカの取っ組み合いに、リュシーたちがきゃあきゃあと悲鳴を上げて逃げ惑う。
 もうめちゃくちゃだ。

 袖が裂ける音。互いに髪を掴み合い、頬に爪が走り、置物が宙を描いて壁に当たる。
 目も耳も熱く、罵り続けるせいで喉まで痛い。世界の輪郭が紅く滲んでいた。

 「そこまでだ!」

 大音声が空気を切り裂いた。
 後ろからがっちりと抱えられ、ヴェロニカから無理やりに引き剝がされる。

 エミリオ殿下だ。
 本宮から連れてきた近衛兵たちに、顎で素早く指示を出す。

 「双方、下がれ。他の者は各自の部屋へ戻れ。今すぐだ」
 「でも殿下、イレーヌ様が――」
 「聞こえなかったのか」

 いつも頼りないはずの声音が、刃のように硬質な鋭さを帯びている。
 リュシーたちは口々に言い訳を零しながらも、気圧されたように渋々と退いた。

 ヴェロニカだけが最後までその目に憎悪を湛え、エミリオ殿下に引きずられて姿が見えなくなるまでわたくしを睨みつけていた。
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