ハロー
未来は上擦った声で言った。芽衣が振り返る。未来は手を握り締め、「えっと……あの……」と必死に「ありがとう」を言おうとする。しかし、言葉が形として出てこない。

(言いたいのに、言葉が出てこない……)

誰もが当たり前に言うはずの「ありがとう」が未来は言えない。「ありがとう」と言われたことも、言ったことも、一度もないのだ。

「その……あの……」

芽衣の視線に耐えられず、未来はだんだん俯いてしまう。その時だった。

「芽衣〜!ちょっといい?」

他のクラスの生徒が芽衣を呼ぶ。芽衣は「今行く!」と声を上げ、未来に背中を向けて去っていく。

(言えなかった……)

悲しい。悔しい。苦しい。自分が嫌い。マイナスな感情が未来の心を支配していく。泣きたくなり、拳を握り締めて唇を噛む。こうなるのは何度目だろうか。

もうすぐ二時間目が始まる。しかし、未来は教室に入らずにある場所へと向かった。



二時間目の開始チャイムが鳴ると同時に、未来は保健室のドアを開けた。保健医の先生が顔を上げる。若い女性の先生だ。
< 8 / 12 >

この作品をシェア

pagetop