追放されたハズレ聖女が皇帝の寵愛を受けたら、大帝国の守護聖女と呼ばれて伝説になりました
(くそ……。こんなにも、彼女を愛しているのに……!)

 やることなすことが空回りして、ドンドンと坂を転がり落ちるかのような錯覚に陥っている。
 それが余計に一歩を踏み出す勇気を奪い、額には脂汗が滲んだ。

「おいで。スノーエル」
「わ、わふ……」

 彼女は神獣を抱き上げると、隣の部屋へと歩みを進める。

(早く、手を伸ばせ。今なら、まだ間に合うはずだ……)

 ダリウスはゴクリと生唾を飲み込み、震える指先を彼女の背に向かって伸ばした。

「おやすみなさい、陛下」

 その直後――。
 くるりと夜着を揺らして振り返ったラシリネは慈愛に満ちた表情でこちらに向かって囁くと、パタリと扉を閉めて休憩室に戻ってしまった。

「反則だ……」

 緊張の糸が切れ、ズルズルとその場に崩れ落ちる。
 ダリウスはドアを背にして項垂れると、顔を真っ赤にして口元を覆ったのだった。
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