追放されたハズレ聖女が皇帝の寵愛を受けたら、大帝国の守護聖女と呼ばれて伝説になりました
(それがありがたいと同時に、つらいのよね……)

 だが、自分はまだ彼と向き合う準備ができていなかった。
 このまま陛下と言葉を交わせば、気づかぬうちにダリウスを傷つけてしまう。
 それを恐れた結果、「妹に会った」と打ち明けられずにいた。

「気を使うな。これらはすべて、急ぎの用事ではない。いつだって、君と話すのが最優先だ」

 だからこそ、皇帝の言葉はありがたかった。

(紫色の瞳が、優しく細められているわ……)

 数日前までこちらを不機嫌そうに睨みつけていたのが嘘のように、彼の表情は穏やかだ。

(伝えても、いいのかしら……)

 ラシリネは何度も思案を繰り返し、膝の上に乗せた手のひらをぎゅっと握りしめる。

(このまま黙っていても、陛下を困らせてしまうだけだわ……)

 自分のせいで、彼に余計な心労をかけさせるわけにはいかない。
 ラシリネがようやく覚悟を決めて声を発しようとしたところ、小さな指先を大きな手が包み込む。

 ――紫色の瞳は、心配そうに揺れていた。
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