追放されたハズレ聖女が皇帝の寵愛を受けたら、大帝国の守護聖女と呼ばれて伝説になりました
(俺が彼女にできるのは、ラシリネに愛を囁き、そっと寄り添うくらいだろうか……)

 皇帝なんて誉れ高い肩書きも、彼女の前ではなんの意味もなさない。
 ただの男が、人々から羨望の眼差しを向けられる聖女にしてやれることなど、たかが知れていた。

(それでも……)

 ラシリネの痛みに見て見ぬ振りをするよりは、よほどマシだろう。
 だからダリウスは、彼女に手を伸ばすのを諦めない。
 恋人を幸せにできるのは自分しかいないと言う自負が、あったからだ。

「ダリウス様!」

 執務室に向かう途中、中庭にいたラシリネに呼び止められた。
 すっかり彼女の守護犬と化した神獣は遠くでひらひらと空中を飛び回る蝶を追いかけるのに必死なようで、こちらをまったく気にする様子がない。

(まったく……。ラシリネに何かあったら、どうするつもりなんだか……)

 ダリウスは獣に対する失望の色を表へ出さないように気をつけながら、聖女の下へ向かった。

「呼び止めてしまい、申し訳ありません……」
「いや。ちょうど戻るところだった。会えて嬉しい」
「わ、私もです!」

 彼女は口元を綻ばせて、同意してくれる。
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