追放されたハズレ聖女が皇帝の寵愛を受けたら、大帝国の守護聖女と呼ばれて伝説になりました
「ああいう時は、母上の言葉に従わなくていいんだ。俺の元へ、逃げてきてほしい」
「はい。今度は、そうしますね」

 ラシリネだって、理由がなければ大人しくなどしていない。
 今回自分が黙って絵画のモデルになったのは、「彼の準備が終わるまで」と言う条件があり、「2人きり」ではなかったからだ。

(陛下の心を乱すくらいなら、お義母様の提案を呑まなければよかったかしら……)

 肩越しに伝わるダリウスのぬくもりを感じながら、ラシリネはどこか困ったように金色の瞳を伏せる。
 だが、それも一瞬だけだ。

(彼女の提案を受けたおかげで、式が始まる前にダリウス様が私を深く愛してくださっていると実感できたんですもの。これほど、喜ばしいことはないわ)

 今は悲しむよりも絶えず笑顔を浮かべ、この状況を楽しむべきだ。
 ラシリネはそう開き直ると、己の首元に回った逞しき腕へ手を伸ばした。

「私は今回の選択を、後悔していません」
「ラシリネ……」
「数分にも満たない短い時間だけかも知れませんが、ダリウス様と2人きりになれましたから」
「な……っ」

 彼は己が口にした何気ない言葉が、よほど嬉しくて仕方がなかったようだ。
 絶句したあと、小刻みに全身を震わせる。
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