追放されたハズレ聖女が皇帝の寵愛を受けたら、大帝国の守護聖女と呼ばれて伝説になりました
「もう少しだけ、ですよ」
「ああ」
「目的地に到着するまで、ですからね」
「わかっている」

 何度も念を押しているうちに、不機嫌そうに細められていた紫色の瞳が嬉しそうに和らぐ。

(このやり取りすら、楽しんでくださっているみたい……)

 こうして愛する人と軽口を叩き合うことすら、自国の聖女で居続ければ叶わない。
 夢のようなひとときを再び経験できたのは、ハズレ聖女などと人々から心ない言葉をぶつけられていたお陰だ。

(陛下と一緒なら、きっと前を向いて歩いていける。そんな気がするわ……)

 彼と少しでも長く一緒にいるために己ができることがあるなら、なんでもしてあげたかった。

(ダリウス様。私の最愛。こんなふうに笑い合う平和なひとときが、いつまでも続きますように……)

 ラシリネはささやかな願いを胸に抱き、この帝国で暮らす決心を固めた。
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