追放されたハズレ聖女が皇帝の寵愛を受けたら、大帝国の守護聖女と呼ばれて伝説になりました
(鼻息が荒くならないように、気をつけないと……)

 気配を消すのは、得意だ。
 最愛の人を遠くから見るだけなら誰にも迷惑をかけないと開き直って息を殺し、彼を観察し続けてどれほどの時間が経過しただろう。

「はぁ……」

 陛下は執務室の椅子に座ったまま深い溜息を零すと、手にしていた書類から顔を上げる。
 その後、こちらに向かって手を何度もひらひらと動かした。

(いい加減にしろ。こっちにおいで……。どっちかしら……?)

 ラシリネは何度も揺れる彼の指先に注目する。
 前者ならば、内側から外側へ手を払うだろう。
 真逆のジェスチャーを見る限り、後者の意図が込められていると考えるべきだ。

(迷惑に思われているのだとしたら、謝罪をしないと……!)

 ラシリネは慌ててのぞき窓から顔を離すと、トタトタと小走りで隣の部屋に繋がる扉を開け放った。

「陛下。お仕事中、申し訳ございません」
「君と俺の仲だろう。堅苦しい挨拶は不要だ。楽にしてくれ」
「しかし……」
「心を許していなければ、執務室に繋がる仮眠室で暮らすようになど、命じるはずがないだろう?」
「そ、それもそうですね!」

 陛下から尤もらしい説明を受け、ようやく納得する。
 口元を綻ばせて頷いたあと扉を閉め、ダリウスのそばへ寄った。
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