追放されたハズレ聖女が皇帝の寵愛を受けたら、大帝国の守護聖女と呼ばれて伝説になりました
「ラシリネ」

 迫りくる魔獣を粗方処理し終えた皇帝は、涼しい顔で剣を鞘に収めるとこちらへ戻ってきた。
 彼はどこか、心配そうに自分を見つめている。

(どうしたのかしら……?)

 ラシリネの疑問は、すぐにダリウスによって解消された。

「面白いものでは、ないだろう。襲いかかる魔獣を退ける姿など……」
「いえ。自国ではほとんど見られなかったので、とても新鮮です」
「そう、か」
「はい。私も、国王に頼んで剣術を習うべきでした。そうすれば、国民達を危険にさらさずに済んだかもしれないのに……」
「そんなこと、しなくていい!」

 皇帝は切羽詰まった様子でそう叫ぶと、ラシリネの身体を勢いよく抱きしめた。
 強い力で腕にいだかれるなど思わず、目を白黒させるしかない。

「陛下……?」
「君はもう、自らを犠牲にして、民に尽くす必要などないんだ……!」

 彼は明らかに、様子がおかしい。
 今にも泣き出してしまいそうなほどに声を震わせて耳元で囁く陛下の姿を前にして、胸がツキンと痛む。

(本当は大丈夫ですよと優しい言葉をかけて、抱きしめ返して差し上げたい……)

 しかし、ダリウスには自分以外の想い人がいる。
 いくら誰も見ていないとしても、軽率な行動は慎むべきだろう。
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