追放されたハズレ聖女が皇帝の寵愛を受けたら、大帝国の守護聖女と呼ばれて伝説になりました
(ああ。私はここで、命を落とすのね……)

 目を閉じれば、今までの出来事が走馬灯のように繰り返される。

(せめて、ひと目だけでいい。もう1度だけ、あなたの姿が見れたのなら……)

 真っ先に思い浮かべたのは、10年前に顔を合わせたきり顔を合わせる機会のなくなった、想い人の姿だった。

『ラシリネ』

 彼はいつだって、自分を優しい声で呼んでくれていた。

『君は聖女になんか、ならなくていい』

 聖なる力がこの身に宿っていると知った時、真っ先にその力は秘匿するべきだとアドバイスをしてくれたのも、彼だ。

『聖なる力を隠す魔具を、身につけてくれ。そうすれば、ずっと一緒にいられる』

 その提案に黙って頷いていれば、ハズレ聖女なんて名前で呼ばれる必要はなかったのだろうか? 

「ガルゥ!」

 こちらが目を閉じて直立不動のまま微動だにしないのをいいことに、獣は安全に狩りができると踏んだのかもしれない。
 勢いよく、地を蹴る音がする。

(これはきっと、天罰なんだわ……)

 自分が聖女になると決意をした時、少年が見せた表情は忘れられない。
 困惑、戸惑い、裏切られたと絶望し、美しい表情は苦痛に歪められていた。
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