追放されたハズレ聖女が皇帝の寵愛を受けたら、大帝国の守護聖女と呼ばれて伝説になりました
 言うことを聞いていたほうが、楽だから。
 自分で決めて、責任を取りたくないから。

 今でもこうして、何か不幸な事態が起きた時に己の心を守る保険をかけている。

(私は醜く、卑しい人間だ……)

 スノーエルを撫でつける指先が、小刻みに震え始めた。
 態度に出さなければ、内に秘めているだけなら、彼に心配をかけなくて済むと理解しているはずなのに――。
 うまく表情をコントロールできずに浮かない顔をしたせいで、陛下に迷惑をかけてしまった。

「俺はこの帝国を治める皇帝だ。君からしてみれば雲の上のような存在かもしれん」

 こちらが自己嫌悪に陥っていると、知ってか知らずか。
 彼は諭すような口調で、静かに声を発した。

「だが……。つらいことや苦しいことがあるのなら、打ち明けてほしい」

 ラシリネが泣こうが喚こうが、陛下には関係ないはずなのに――。
 こうして優しい言葉をかけてくれるのは、彼の人柄がいいからなのだろう。

「君はもう、孤独に祈りを捧げ続けることを運命づけられた聖女では、ないのだから……」

 仕事を中断してまで、寄り添ってくれたのだ。
 この場で「その気持ちはありがた迷惑です」などと言えるはずもなく、素直に己の身にいだく気持ちを打ち明けると決めた。
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