追放されたハズレ聖女が皇帝の寵愛を受けたら、大帝国の守護聖女と呼ばれて伝説になりました
 紫色の瞳が、切なげに潤む。
 どことなく、唇から紡ぎ出される低い声も震えているような気がした。 

「その身を犠牲にして、民を守る必要はないんだ」
「帝国民が傷ついてからでは、遅いのです」
「帝国民を、舐めないでくれ。アデラプスの民なんかよりもずっと屈強で、何度も修羅場をくぐり抜けている。聖女などいなくても、平気だ」
「陛下……」
「あの日の出来事を後悔しているのなら、今度こそは聞き入れてほしい」

 彼は胸元からあるものを取り出し、ラシリネに差し出す。
 それは10年前にも目にした覚えのある、聖なる力を発揮できなくさせる制御魔具だった。

(これを受け取れば、聖女にならなくて済む……)

 聖なる力を身に宿した聖女が、神の意思に背くことは重罪だ。
 いつか必ず、天罰が下る。

(彼に想いを通じ合わせられる確証があれば、陛下の手を取ったかもしれない……)

 たとえどれほど恐ろしい目に遭おうとも、ダリウスさえいればほかにはいらない。
 そう思えるほどに、ラシリネは陛下を愛していたからだ。
 しかし――。
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