ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。

 丁寧に乾かし終えると、時計の針は日付が変わる五分前になっていた。

「ありがと。……これ、ちょっと動かすね」

 祥ちゃんが立ち上がり、ローテーブルを端に寄せて、ソファベッドの背もたれを倒す。
 あっという間に平らなベッドの形になった。

「……へえっ。こう変わるんだー」

 感心する私を隣に座らせ、二人で壁に背中を預けて時計を見つめる。

 チクタクと進む秒針の音が、部屋に響く。

 5、4、3、2、1――。

 0時ちょうどになった瞬間、祥ちゃんの首にギュッと抱きついた。

「祥ちゃん、誕生日おめでとうっ。 ……一番に言えた!」

 嬉しがる私に、彼は「ありがとう」と囁いて、軽いキスを落とした。

「……来年の私の誕生日は、祥ちゃんに一番に『おめでとう』って言われたいな」

 私の誕生日は、四月の上旬だ。
 大学に入って東京で再会した時にはもう過ぎていて、すでに十九歳になっていたのだ。

「……もちろん」

 私の髪を撫でながら微笑む彼の目尻が、優しく下がる。

 私は一度ベッドを降りて、自分のトートバッグから綺麗にラッピングされた箱を取り出した。

「はい、これ。誕生日プレゼント……です」

「うわー……ありがとう。開けていい?」

 私がこくりと頷くと、彼は丁寧に包装を解き始めた。
 中から現れたのは、グレーのケーブル編みマフラーだ。

「祥ちゃん、意外と寒がりだから。よかったら使って」

「……ありがとう。 使うのもったいない」

 マフラーの感触を確かめながら、感激したような微笑みを見せた。

「えー? 使ってよ」

「もちろん使うけどさ。なんか……誕生日になる瞬間を美絵と過ごせて、お祝いしてくれて、こんなプレゼントももらえるなんて。中学生の俺が知ったら、絶対ひっくり返る」

 そう言って笑ったあと、彼はまっすぐ私を見つめた。

「……大切にするね」

 その低くて落ち着いた声が、マフラーだけではなく、『美絵のことを大切にするね』というふうにも聞こえて、じんわりと広がるあたたかい気持ちを噛み締めた。


 日付が変わり、プレゼントも渡し終え、だんだんと部屋の時間が止まっていくような錯覚に陥る。

 ベッドの上に並んで座ったまま、祥ちゃんが私の両手をそっと包み込んでくれた。
 そして、触れるだけのキスが、幾度となく大切に落とされる。

 ゆっくり、ゆっくりと、深い海の中に潜っていくような感覚。

 最も深いところまでいくと、足もつかず、宙に浮いたような状態になってしまった。
 息継ぎの仕方もわからず、必死に彼に掴まろうとするのに、波にさらわれるように、何度も遠くに流されそうになる。

 けれどそのたびに、彼が私の名前を呼ぶ低く優しい響きと、あたたかく大きな手のひらが、私を安全な場所へと引き戻してくれた。

 ――そんな満ち引きを繰り返して。

 やっと彼の腕の中という、世界で一番安心できる場所に辿り着くことができた私は、その温もりに包まれながら、すうっと眠りについた。
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