ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。
朝陽と故郷の風に抱く、たしかな決意と幸せな痛み

第56話

 身体の節々が軋むような感覚に、僕は薄く目を開けた。

 カーテンの隙間から漏れる光はまだ弱く、部屋に青みがかった薄暗さが染み込んできている。

(……なんだ? この痛み……)

 寝ぼけた頭で首を回そうとした瞬間、視界に入った光景に息を呑んだ。

 すぐ目の前にある、美絵のあどけない寝顔。
「スースー……」と、穏やかな寝息を立てている。

(……あ……そうか……。美絵が、ここに泊まったんだ……)

 急速に覚醒していく意識とともに、昨晩の記憶が鮮明に蘇ってくる。

 楽しそうに、嬉しそうに。
 変装したり、トランプゲームをしたり、プレゼントを渡してくれたり。
『おめでとう』と言ってくれた、眩い笑顔。

 そして――そのあとの、体温や、匂いや、声。

 初めて知るものも、たくさんあった。

(……っ)

 細かい表情一つひとつまで思い出してしまい、一気に顔に血が上るのを感じる。

 だけど、それ以上に、どうしようもないほどの幸せが、胸の奥を満たしていた。

 彼女のことは、もう既に限界まで大好きだと思っていたのに。
 昨日より今日、さっきより今と、その想いの最大値がどんどん更新されていくことに、ただただ驚く。

 寝返りが打てていなかったせいで背中や肩が痛いが、それも当然だった。
 壁側に美絵、外側に僕が寝ていたのだが、彼女が寝返りを打てるようにと、僕はベッドの縁ギリギリのところで硬直したまま眠っていたらしい。
 けれどその身体の強張りすら、今はなんだか愛おしくて気にならなかった。

 彼女を起こさないよう、そっとベッドを抜け出す。

 音を立てないように少しだけカーテンを開け、冷蔵庫から出した麦茶を一口飲んで、再びベッドの上の狭いスペースへ戻った。

「ん……」

 僕の動く気配に気づいたのか、美絵が身じろぎをした。

(やばい。起こしちゃったか?)

 焦って身を固くしたが、彼女は目を閉じたまま「……んんん」と言葉にならない寝言のようなものを呟いて、再び小さな寝息を立て始めた。

 無防備すぎる姿に、たまらずフッと笑みがこぼれてしまう。

 そのまま横になりながら、彼女の寝顔をただぼーっと眺め、浸っていた。
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