ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。

第57話

 彼の隣で目覚めてからずっと、甘い余韻の中にいるようだった。

 爽やかに晴れ渡った朝。
 誕生日の主役であるはずの祥ちゃんが作ってくれた朝食で、幸せいっぱいの一日は幕を開けた。

 昨晩コンビニで買った食パンをトーストして、手際よくバターを塗る。
 その上に目玉焼きとカリカリのベーコンを乗せ、仕上げに塩コショウをパラリ。

「簡単なものだけど、どうぞ」

 そう言って差し出してくれたのは、シンプルだけど食欲をそそる香りが漂うワンプレート。

「祥ちゃん、料理できるんだね」

「えっ、いやいや。安くて簡単で、それなりに栄養が取れるものなら、自分用にたまに作るってだけ」

 実家にいた頃は台所に立つことなんてなかったらしいけれど、バイト先のファミレスで人手不足のときにキッチンを手伝わされるうち、自然と抵抗がなくなったのだという。

「……美味しーい」

 サクッとしたトーストと卵のまろやかさが、口いっぱいに広がる。

 私も、自分のための適当な自炊くらいはしているけれど、今度、手間暇かけた特別なものを彼に作ってあげたいと心に決めた。
 なんだかずっと、私のほうが幸せをもらってばかりな気がするから。

 食後には、祥ちゃんが自分用にブラックコーヒー、私用にカフェラテを淹れてくれた。
 ふと思い立って、彼のマグカップから一口だけもらう。

「……あれ?」

 ブラック特有の苦味はいまだに得意じゃないはずなのに、不思議と「これなら好きになれるかも」という予感がした。

「これは酸味が少なくて苦いタイプかな。探してみたら、美絵の好きなブラックが見つかるかもよ」

 そう教えてくれる大人っぽさに、また少しだけ背伸びをしたくなる。

 ◇

 誕生日デートの行き先は、祥ちゃんの希望に合わせようと思っていたのだけれど。
 提案されたのは、家でくつろいだり、近隣を散策する「まったりデート」だった。

 朝、確認された時は「大丈夫だよ」と答えたけれど――もしかすると、初めての夜を過ごした私の身体を気遣ってくれたのかもしれない。
 ……そう気づくと、なんだか顔が熱くなった。

 昼過ぎまでは、懐かしい曲を流して「これ、流行ってたよね」と話したり、昨晩のトランプの続きをやったりして、家でのんびりした。

 その後、遅めのランチをとるために、前から気になっていた近所のカフェへ向かった。
 植物に囲まれたお洒落な空間。
 二人が選んだオムライスは、卵がふわふわですごく美味しくて、「また来よう!」と約束した。

 店を出た後は、スーパーに立ち寄った。
 祥ちゃんは生クリームがそんなに得意ではないらしいので、誕生日ケーキの代わりになる何かを買おうと思ったのだ。
 けれど、冷蔵ケースに並ぶ焼きそばの麺を見た彼が「急に食べたくなった」と呟いたのをきっかけに、夕食は一緒に焼きそばを作ることにした。

 狭いキッチンに並び、野菜を切る。

(なんか……夫婦みたい)

 そんなことを考えて、勝手に照れてしまった。

 小学校低学年の時、転んで顔が血だらけになった私を見てお父さんが気を失った笑い話。
 五つ下の弟のことを「野球やってるよ」「なんだかんだ可愛いんだよなー」と目を細めて語る祥ちゃんの横顔。
 お互いのルーツに触れるたび、心の距離がさらに一歩、近づいていくような気がした。
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