ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。
◇
大混雑のスーパーで買い出しを済ませ、懐かしい我が家の匂いに包まれた頃、降りしきる雪がさらに強まっていた。
「少し雪かきしてくる」と大きなスコップを抱えた父が外へ出ていき、家の中には私と母の二人きりになった。
台所で夕飯の支度をする背中を眺めながら、温かいお茶をすする。
ふと、ずっと聞きたかったことが口をついて出た。
「……ねえ、お母さん。中学の同級生だった、瀬川くんって覚えてる? ピッチャーで有名だった……」
「え?」
数秒間、記憶を辿った母はすぐに彼を思い出した。
「あー! 覚えてるわよ。すごく上手で、強豪校に推薦決まってた子でしょう?」
そして「あの野球好きなお父さんも覚えてるかもね」と付け足した。
(やっぱり、お母さんも覚えていたんだ)
「その人とね……大学のサークルで偶然再会したの」
「ええっ! そんな偶然あるのねえ!」
母は驚いた声を上げた。
そして、少しの間をおいたあと――ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべながら振り返った。
「……もしかして。付き合ってたりするの?」
「えっ!? なんでっ!?」
(私、今、そんなに怪しかった!?)
「だって、美絵が男の子の話するなんて珍しいし。それにこの前、いきなり『中学の卒アル送って』なんて言ってきたじゃない。彼の写真が見たかったのかなーって」
「…………」
まさにその通りすぎて、否定するタイミングを完全に逃してしまった。
(私、誰かに何かがこうやってバレるの多すぎじゃない!? よっぽど隠し事が下手なのかな……)
私の沈黙を肯定と受け取った母は、さらに楽しそうに目を輝かせる。
「同級生と再会してお付き合いなんて、素敵じゃない! あ、でも。お父さんにはまだ言わないほうがいいわね」
「……なんで?」
「好き合ってる二人が、東京で目と鼻の先に住んでるなんて知ったら、あの人、心配で夜も眠れなくなっちゃうかも。追々ね、追々!」
「…………」
身に覚えがありすぎて、ただ黙ってお茶を飲むしかできなかった。
母もひと休みがてら、テーブルの向かいに腰を下ろした。
お茶を啜りながら、とても楽しげな様子で続ける。
「ねえねえ。その瀬川くんは帰省してないの? 顔見てみたいわあ」
「……明日の朝、こっちに帰ってくるって」
「あら! じゃあ、明日のお昼、近所の公園で自治会の餅つき大会があるでしょう? そこに彼を呼びなさいよ!」
「へっ!?」
思いもよらない提案に、素っ頓狂な声が出てしまった。
「お父さんには『ただの同級生』って紹介すれば大丈夫だから! ね?」
「ちょっと、お母さん!?」
勝手にどんどん話を進める母の勢いに、ただ面食らうばかりだ。
けれど、無理やりだと思いながらも、私の胸は淡い期待で高鳴っていく。
(……もし明日、本当に祥ちゃんに会えたら)
ガラスの向こう、降り積もっていく雪を眺めながら、まだ見ぬ明日の再会を、密かに願い始めていた。
大混雑のスーパーで買い出しを済ませ、懐かしい我が家の匂いに包まれた頃、降りしきる雪がさらに強まっていた。
「少し雪かきしてくる」と大きなスコップを抱えた父が外へ出ていき、家の中には私と母の二人きりになった。
台所で夕飯の支度をする背中を眺めながら、温かいお茶をすする。
ふと、ずっと聞きたかったことが口をついて出た。
「……ねえ、お母さん。中学の同級生だった、瀬川くんって覚えてる? ピッチャーで有名だった……」
「え?」
数秒間、記憶を辿った母はすぐに彼を思い出した。
「あー! 覚えてるわよ。すごく上手で、強豪校に推薦決まってた子でしょう?」
そして「あの野球好きなお父さんも覚えてるかもね」と付け足した。
(やっぱり、お母さんも覚えていたんだ)
「その人とね……大学のサークルで偶然再会したの」
「ええっ! そんな偶然あるのねえ!」
母は驚いた声を上げた。
そして、少しの間をおいたあと――ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべながら振り返った。
「……もしかして。付き合ってたりするの?」
「えっ!? なんでっ!?」
(私、今、そんなに怪しかった!?)
「だって、美絵が男の子の話するなんて珍しいし。それにこの前、いきなり『中学の卒アル送って』なんて言ってきたじゃない。彼の写真が見たかったのかなーって」
「…………」
まさにその通りすぎて、否定するタイミングを完全に逃してしまった。
(私、誰かに何かがこうやってバレるの多すぎじゃない!? よっぽど隠し事が下手なのかな……)
私の沈黙を肯定と受け取った母は、さらに楽しそうに目を輝かせる。
「同級生と再会してお付き合いなんて、素敵じゃない! あ、でも。お父さんにはまだ言わないほうがいいわね」
「……なんで?」
「好き合ってる二人が、東京で目と鼻の先に住んでるなんて知ったら、あの人、心配で夜も眠れなくなっちゃうかも。追々ね、追々!」
「…………」
身に覚えがありすぎて、ただ黙ってお茶を飲むしかできなかった。
母もひと休みがてら、テーブルの向かいに腰を下ろした。
お茶を啜りながら、とても楽しげな様子で続ける。
「ねえねえ。その瀬川くんは帰省してないの? 顔見てみたいわあ」
「……明日の朝、こっちに帰ってくるって」
「あら! じゃあ、明日のお昼、近所の公園で自治会の餅つき大会があるでしょう? そこに彼を呼びなさいよ!」
「へっ!?」
思いもよらない提案に、素っ頓狂な声が出てしまった。
「お父さんには『ただの同級生』って紹介すれば大丈夫だから! ね?」
「ちょっと、お母さん!?」
勝手にどんどん話を進める母の勢いに、ただ面食らうばかりだ。
けれど、無理やりだと思いながらも、私の胸は淡い期待で高鳴っていく。
(……もし明日、本当に祥ちゃんに会えたら)
ガラスの向こう、降り積もっていく雪を眺めながら、まだ見ぬ明日の再会を、密かに願い始めていた。