ふたつの弧が、重なるとき ~元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく~【完結】
「――……まあ、男子にとって森さんは、芸能人みたいなものだったわ。リアルな恋愛対象っていうよりは」

 コーヒーの残りを飲み干し、過去の映像を振り払うように立ち上がった。

「今日はもう帰るわ。バイトあるし」

「えー。もうちょい聞かせろよ、祥太郎ー!」

 正人の声を背中に受けながら、逃げるように部室を後にした。

 ◇

「……ふー」

 駅の改札を抜けながら、大きく息を吐いた。

 飲み会で無遠慮に森さんを質問攻めしたサークルの先輩いわく、現在は彼氏はいないらしい。
 ということは、あの「年上彼氏」と続いているということもない。

 ただ、彼女に彼氏がいようと、僕がただの同級生であろうと、そんなことはどうでもいい。
 大学生になった今、同じ環境にいて、笑いかけてくれるなんて――それだけで夢物語のような状況なんだ。
 そう、自分に言い聞かせる。

 けれど、カフェテリアで見た無防備な笑顔や、筆箱の中身をぶちまけて焦ったり、一緒に拾ってあげたら少し恥ずかしそうにしていた表情。
 そのすべてが、どうしようもなく愛おしく思い出されてしまう。

 綺麗な箱の中に押し込めたはずの、遠い記憶と感情。
 それが少しずつ形を変え、胸を騒がせ始めていることには、まだ気づかないフリをしていた。
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