ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。
 ◇

「……あの。アイスを注文したんですけど」

 戸惑う女性の声で、ハッと我に返る。
 カウンターで柳くんが作ったドリンクを受け取ったお客さんが、少し困った顔をしていた。

「…………!」

 レジの履歴を見ると、たしかに言われた通り「アイス」と打ち込んでいる。
 けれど、ドリンク担当の柳くんに、誤って「ホット」と伝達してしまったのだ。

(やってしまった……!)

「も、申し訳ありません……!」

 慌てて頭を下げると、状況を察した柳くんがスッと横から出てきた。

「申し訳ありません。すぐに作り直しますね」

 彼は手品のような手際で、あっという間にドリンクを作り直し、カウンター越しに差し出した。

「ありがとうございます。気にしないでください!」

 そう微笑んでもらえたけれど、私の心臓はバクバクと嫌な音を立てていた。
 さっきまでのことは一旦忘れて、目の前の仕事に集中しようと思っていたのに――。


 お客さんが去ってから、柳くんに向き直った。

「……ごめんなさい。言い間違えて……」

 彼は、布巾でカウンターを拭きながらチラッとこちらを見た。

「人間がやってることなんだから、ミスくらいあんだろ。気にすんな」

 ぶっきらぼうな言葉が、弱っている私にひどく沁みる。

 仕事に私情を持ち込んでしまったことが情けなくて、さらなる自己嫌悪に苛まれた。
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