ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。
第71話
「……彼氏ですかあー? めっちゃカッコよくて、大好きですよお〜」
えへへへ、と笑みが止まらない。
「……店長。こいつ、酒入るとめんどくさいタイプっすね」
テーブルの向かい側で呆れながらジョッキを傾け、隣の店長に同意を求める柳くん。
「えーっ、いいじゃなーい! デレてる美絵ちゃん、可愛すぎる〜!」
対する店長は両手で頬を包んで、微笑ましい表情を向けてくれていた。
駅前にある和食の居酒屋さん。
週の真ん中だからか、運良く個室に通してもらえた。
私は誕生日のとき買ったものと同じ、ピーチ味のサワーを頼んだ。
けれど、お店のお酒は少し度数が強いのか、それともバイトの疲れがあったからか、この前よりもずっと酔いが回っている気がする。
頭の芯がふんわりと解けて、宙に浮いているみたいな感覚だ。
でも、アルコールが今日の嫌な出来事にベールをかけてくれているようで、ただただハッピーな気分だった。
(今なら、祥ちゃんにぎゅーって抱きついて『今日はごめんね。ただいつものやきもち焼いちゃったの』って、素直に謝れる気がする……)
深刻にせず、さらっと言える。
そんな根拠のない自信まで湧いてきていた。
「柳くんはー? 彼女とかいるの?」
ふと、店長が話を振った。
「今はいないです。まあ、俺は一人でも全然平気なんで。好きになれば付き合うし、そうじゃなくなれば別れるし……みたいな感じですね」
「えー、なんかめちゃくちゃドライだわ」
あっけらかんとした答えに、店長は少し怯えたように肩をすくめる。
三十三歳の大人の女性である店長は、十年間同棲している彼氏がいるらしい。
さっき聞いたその話に、柳くんが切り込んだ。
「店長は、結婚とか考えてるんすか?」
店長は「んー」と斜め上を見つめ、お酒を一口飲んでから話し始めた。
「五年くらい前かな? その頃までは、『早くプロポーズしろよ』っていつもイライラしてたの。彼、仕事に夢中でさ……」
懐かしむように目を細める。
「でもね。ちょうどその頃、彼が大きい交通事故に遭って、ちょっと危ない状態にまでなって……。そこから、『一緒にいられるのが貴重だな』みたいに思うようになって、あまり多くを望まなくなったんだよね」
私は、酔った頭ながらも真剣に聞き入っていた。
「私も、店長になってから仕事がすごく面白くなったのもあって、このままきちゃって。将来のこと考えたら、そろそろ何かしら動かないとって、わかってるんだけど」
そう言って苦笑いをしてから、ふわりと優しく微笑む。
「まあでも、幸せだよ」
色んなことを経験してきた、包容力ある女性。
その笑顔が、私にはひどく眩しく見えた。
えへへへ、と笑みが止まらない。
「……店長。こいつ、酒入るとめんどくさいタイプっすね」
テーブルの向かい側で呆れながらジョッキを傾け、隣の店長に同意を求める柳くん。
「えーっ、いいじゃなーい! デレてる美絵ちゃん、可愛すぎる〜!」
対する店長は両手で頬を包んで、微笑ましい表情を向けてくれていた。
駅前にある和食の居酒屋さん。
週の真ん中だからか、運良く個室に通してもらえた。
私は誕生日のとき買ったものと同じ、ピーチ味のサワーを頼んだ。
けれど、お店のお酒は少し度数が強いのか、それともバイトの疲れがあったからか、この前よりもずっと酔いが回っている気がする。
頭の芯がふんわりと解けて、宙に浮いているみたいな感覚だ。
でも、アルコールが今日の嫌な出来事にベールをかけてくれているようで、ただただハッピーな気分だった。
(今なら、祥ちゃんにぎゅーって抱きついて『今日はごめんね。ただいつものやきもち焼いちゃったの』って、素直に謝れる気がする……)
深刻にせず、さらっと言える。
そんな根拠のない自信まで湧いてきていた。
「柳くんはー? 彼女とかいるの?」
ふと、店長が話を振った。
「今はいないです。まあ、俺は一人でも全然平気なんで。好きになれば付き合うし、そうじゃなくなれば別れるし……みたいな感じですね」
「えー、なんかめちゃくちゃドライだわ」
あっけらかんとした答えに、店長は少し怯えたように肩をすくめる。
三十三歳の大人の女性である店長は、十年間同棲している彼氏がいるらしい。
さっき聞いたその話に、柳くんが切り込んだ。
「店長は、結婚とか考えてるんすか?」
店長は「んー」と斜め上を見つめ、お酒を一口飲んでから話し始めた。
「五年くらい前かな? その頃までは、『早くプロポーズしろよ』っていつもイライラしてたの。彼、仕事に夢中でさ……」
懐かしむように目を細める。
「でもね。ちょうどその頃、彼が大きい交通事故に遭って、ちょっと危ない状態にまでなって……。そこから、『一緒にいられるのが貴重だな』みたいに思うようになって、あまり多くを望まなくなったんだよね」
私は、酔った頭ながらも真剣に聞き入っていた。
「私も、店長になってから仕事がすごく面白くなったのもあって、このままきちゃって。将来のこと考えたら、そろそろ何かしら動かないとって、わかってるんだけど」
そう言って苦笑いをしてから、ふわりと優しく微笑む。
「まあでも、幸せだよ」
色んなことを経験してきた、包容力ある女性。
その笑顔が、私にはひどく眩しく見えた。