ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。

「……ずっと一緒にいるためには、どうしたらいいんでしょうか」

 気がつけば、すがるように問いかけていた。
 柳くんはグラスに口を付けながら、黙って私を見ている。

「えー? でも、美絵ちゃんたちはお互い大好きなんでしょ? 相手を大事にしてたら、大丈夫だよ!」

「でも……『大事にする』って、どうしたらいいか、わかんなくて……」

 思わず俯きながら弱音を吐く。

「何か悩んでるの?」

「……どうしても、やきもち焼いちゃうんです」

 絞り出すように明かすと、柳くんは「中学生か」と鼻で笑った。

「やきもち!? はあ〜、最後に妬いたのなんていつかしら……」

 店長は遠い目をしてから、「別にいいんじゃない? 彼氏は、そんな美絵ちゃんも可愛いんじゃない?」とフォローしてくれる。

「でも……そういう『可愛いの』じゃないんです。可愛くない、めんどくさいやきもちなんです。彼氏は悪くないのに、私が自分に自信がないせいで、なんでも不安に感じてるんです……」

 お酒のせいで、心の奥底に沈めていた黒い感情が、次々と外に溢れ出てくる。

 私の言葉を聞いた柳くんが、「あーわかった」と納得したように頷いた。


「そういうやつね。森って、だいぶめんどくさいタイプだな」


 ――そう。彼の言う通りだ。

『やきもち焼きでも、子供っぽくてもいいよ』と、祥ちゃんは前に言ってくれた。
 でも、今の私は、祥ちゃんが『いいよ』と言ってくれた範疇に収まっていない気がするのだ。

 もうそろそろ、この重さに嫌気がさしているかもしれない。

「……え?」

 突然、柳くんがギョッとした声を上げた。

「よ、美絵ちゃん!?」

 店長も驚いて身を乗り出す。

 そこで初めて――自分がボロボロと涙をこぼしていることに気がついた。

 さっきまで、あんなに楽しい気分だったのに。
 一度決壊した涙腺から、みるみる涙が溢れ出していく。

「もう! 柳くんがキツい言い方するからでしょーが!」

「いや、俺のせいすか!?」

 柳くんの肩をバシッと叩いた店長は、慌てておしぼりを持って隣に来てくれた。

「『自分に自信がない』かあ……。たしかに私も、二十歳の頃、自信なんて全然なかったかも」

 私の背中を優しくさすりながら、穏やかな声で語りかけてくれる。

「今も、『自分に自信があるか?』と聞かれたら、はっきりと肯定はできないけど……でも、自分の考え方や生き方には、満足してるかな?」

「満足、ですか……?」

「そう。大学を出て、右も左もわからないまま働いて、色々失敗して成長して……。それを繰り返して、だんだんそうなっていくんじゃないかな?」

「…………」

「大丈夫! 美絵ちゃんも柳くんも、私が二十歳の時より、全然立派に働いてくれてるからー!」

 あたたかい励ましと肯定の言葉に、また涙腺が緩んでしまった。

「……悪い」

 柳くんが頭を掻きながら、小さな声で言った。

 思い切り首を左右に振って、『違うの。柳くんのせいじゃないの』と、涙声の代わりに懸命に訴えた。
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