ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。
不器用な言葉がすれ違う、空虚な日々

第73話

 分厚く濃い灰色の雲に覆われ、今にも雨が降り出しそうな週末の夕方。
 やけに空が低く、息苦しい。
 近づいている低気圧のせいか、朝からずっと頭の芯に鈍い痛みが居座っている。

 バイトを終え、薄暗い部屋に帰ってきた僕は、電気もつけないままソファベッドにダイブした。

 ドサッと重い音を立てて、置きっぱなしの枕に顔をうずめる。

「…………」

 すると微かに、本当に微かにだけれど、美絵の髪の甘い香りがまだ残っているような気がして、たまらなく胸が苦しくなった。


『……少し、考えさせて』

 あの日、美絵にそう言われてから、もう一週間以上が経った。
 今まで生きてきた中で、一番長い一週間だった。

 その間、講義とバイト以外は何もやる気が起きず、ただひたすら寝て過ごしていた。

『考えたい』というのは。
 僕との付き合いを考え直したい、つまり――『別れ』の可能性がある、ってことだろうか。

 その真意を、ちゃんと確かめればよかった。
 引き止めて話し合えばよかった。
 でも、涙で歪んだ美絵の顔を見たら、まさに『そういう意味』だと突きつけられるような気がして、恐ろしくて何も聞けなかったのだ。

 お互いが好きで、一緒にいるはずだった。
 こんなことになるなんて、思ってもみなかった。

 絶望とショックで頭が真っ白になり、あの朝、彼女をどうやって部屋から見送ったのか、記憶すら曖昧だ。

 こうなったのはきっと、僕のせいだ。
 暗闇の中で目を閉じると、自分の放った言葉が刃のように何度も胸を刺す。

『柳くんの前で泣いた、自分は?』

 美絵が何かに苦しんでいて、大きな不安を抱えていることは、感じ取れたのに。
 嫉妬や独占欲、そして「こんなに好きなのに、信じてもらえていない」という苛立ちで、あろうことか彼女が一番脆くなっているときに責めてしまった。

 受け止めるどころか、彼女の逃げ場を、この僕が塞いでしまったんだ。
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