ふたつの弧が、重なるとき ~元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく~【完結】
 ◇

 そして、約束の日。

 僕は二限から授業があったため、重い足取りでキャンパスに向かっていた。

 大学の正門にもうすぐ着くというところで、すれ違った女子学生たちの会話がふっと耳に入ってきた。

「門のところにいた二人、めっちゃ美男美女だったね〜。なんか絵になってた」

 その会話を特に気に留めるつもりはなかったのだけれど、なぜか妙に頭に残ったまま足を進めた。


 門の手前に着くと、その脇に立つ人影に視線が吸い寄せられた。
 足が、意図せずピタリと止まる。

 黒地に白い水玉模様のクラシカルなワンピースに、さらさらと揺れる栗色の髪。

(…………美絵だ)

 今日の夕方に会う約束をしている、彼女だった。

 久しぶりに見かけるその姿は、不思議と一層、美しく見えて。
 抑えていたはずの胸が、勝手に激しく高鳴りだす。

 そして――横にいる、こちらに背中を向けて立つスーツ姿の男に気づいた。

 彼女が、彼を見上げながら、何かを喋っている。

 不意に、さっきすれ違った女子学生の言葉が、頭に舞い戻った。

『門のところにいた二人、めっちゃ美男美女だったね〜。なんか絵になってた』

 美絵が、数メートル先にいる僕に気づいた。
 その瞬間、なぜかひどく驚き、サッと血の気が引いたような表情になる。

 彼女の視線を追うようにして、スーツの男が振り返る。
 その顔や雰囲気が、脳裏に、遠い冬の記憶をフラッシュバックさせた。

 僕とは違った雰囲気の、色気の漂う大人の男。
 中学の時、美絵と手を繋いで歩いていた――あの男。

(元彼、じゃないか……?)

 美絵の唇が、「あ……」と小さく動いたのが見えた。

 最後に僕の部屋で、泣いている彼女を見送ってから、今日まで長かった。
 やっと会えた。
 会えたことを喜びたいのに、目の前の状況に、ただ激しく困惑している。

 硬直している美絵を見て怪訝な顔をした彼が、何かを尋ねている。
 戸惑いながらも、それに答えているような美絵。

(なんで今……元彼と一緒にいるんだ)

 頭の中が真っ白になる。

 居た堪れなくなり、会話を交わす二人から目を背け、逃げるようにその場を後にしていた。

 背後から、僕の名前を呼ぶ小さな声が聞こえた気がした。
 でも、振り向けなかった。
 もし振り向いて、彼と並ぶ美絵の姿をもう一度見てしまったら、自分がどうなってしまうかわからなかった。

 そして、彼女が僕を追いかけてくる足音は、なかった。
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