ふたつの弧が、重なるとき ~元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく~【完結】
 ◇

「四番テーブル、ハンバーグセット入りましたー!」
「はいっ」

 鉄板の上で肉が焼けるジューという音と、油の跳ねる匂い。
 食洗機の回る蒸気と、ホールの冷房が混ざり合った独特の空気が充満するキッチンで、僕は額の汗を手の甲で拭った。

 ピークタイムは過ぎたとはいえ、店内はまだ賑やかだ。

「瀬川くん、ホールお願い! 三番さんの呼び出し!」
「了解です」

 エプロンの紐を締め直し、トレイを片手にキッチンを出る。

 重たい扉を開けた瞬間、客席の喧騒と、有線のJ-POPが鼓膜に飛び込んできた。
 冷房の効いた涼しい空気に、火照った身体が少しだけ生き返る心地がする。

 ベルが鳴った三番テーブルに向かう。

「お待たせいたしました」

 伝票を取り出し、顔を上げる。

「ご注文をお伺い……」

 そこまで言って、言葉が詰まった。

「……うふふ。来ちゃった!」

 不自然な裏声でそう言いながら、メニュー表の影から顔を覗かせる正人。

 その隣では、サークルの同期のいずみが笑っている。
 さらにその向かいには――。

「……あ、お、お疲れさまです……」

 遠慮がちに、けれど少しだけ嬉しそうにこちらを見る、森さんがいた。

 その瞬間、ファミレスのありふれた照明が、スポットライトみたいに彼女だけを照らし出したように見えた。

「え……お前ら、なんで」

 素の声が出そうになるのを、慌てて接客モードに戻して飲み込む。

 心臓が、早鐘を打ち始めた。

(汗臭くないか? 前掛け汚れてないか? 髪、ボサボサじゃないか?)

 突然の女神の登場に、僕は焦りまくっていた。
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