ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。

第11話

「やっぱ何度見ても祥太郎、似合いすぎ! 執事みてえ!」

 正人くんが肩を揺らして笑っているけれど、私はそれどころではなかった。

 目の前にいる瀬川くん。
 白いワイシャツに、黒いパンツ。腰には同じ黒のサロンエプロンをキュッと巻いている。
 袖を肘まで捲り上げていて、そこからのぞく腕の筋肉や、浮き出た血管を、バレないようにチラチラと見てしまう。

 普段の穏やかな雰囲気とは違う、キビキビとした「働く男の人」の空気を纏っていた。

(……かっこ、いい)

 見惚れてしまいそうになるのを、必死でメニューに視線を落として誤魔化す。

「……び、びっくりさせてごめんね」

「いや……全然。来てくれてありがとう」

 瀬川くんは、少し照れくさそうにしながらも柔らかく微笑んでくれた。

 オーダーを取るために彼が屈み込むと、ふわりと、香水のような大人っぽい香りと、微かなコーヒーの香りがした。

(心臓の音がうるさい……)

 私の注文を復唱する彼の声が、いつもより低く、耳の奥に心地よく響く。
 これじゃあ、驚かせに来たのか、ドキドキさせられに来たのかわからない。
< 20 / 183 >

この作品をシェア

pagetop