ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの両片思い。不器用な二人が、東京で0センチメートルになるまで~
「やっぱ何度見ても祥太郎、似合いすぎ! 執事みてえ!」
正人くんが肩を揺らして笑っているけれど、私は笑うどころではなかった。
目の前に立っている瀬川くん。
黒のパンツに、白いシャツ。腰には黒いサロンエプロンをきゅっと巻いている。
いつもは下ろしている袖を肘まで捲り上げていて、そこから覗く腕の筋肉や、浮き出た血管を、バレないようにチラチラと見てしまう。
普段の穏やかな雰囲気とは違う、キビキビとした「働く男の人」の空気を纏っている。
(……かっこ、いい)
思わず見惚れてしまいそうになるのを、必死でメニューに視線を落として誤魔化した。
「……び、びっくりさせてごめんね」
「いや……全然。来てくれてありがとう」
瀬川くんは少し照れくさそうにしながら、それでも優しく微笑んでくれた。
オーダーを取るために彼が屈み込むと、ふわりと、香水のような大人っぽい香りと、微かなコーヒーの香りがした。
心臓の音がうるさい……。
私の注文を復唱する彼の声が、いつもより低く、耳の奥に心地よく響く。
これじゃあ、驚かせに来たのか、私がドキドキさせられに来たのかわからない。
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