ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。

第13話

 七月に入り、蝉がけたたましく鳴き始め、いよいよ夏本番への突入を告げている。

 前期末試験まで、あと一週間。
 キャンパス内の図書館は、単位取得に焦る学生たちの熱と、それを冷やそうと唸りをあげる空調の低い駆動音が、ぶつかり合っていた。

「……はあ」

 重たいテキストを閉じると、紙とインクの匂いがふわりと舞った。
 こめかみの奥で、ズキズキと鈍い痛みが脈打っている。

 人手不足のため、連日シフトに入っていたファミレスのバイト。
 やっと新しい人が入り、テスト期間を前に、シフトを以前のペースに戻すことができ、安心したのも束の間。
 気が緩んだからか、しばらく無理していたツケが、ここに来て回ってきたらしい。

 喉の奥が焼け付くように痛み、唾液を飲み込むと鉄の味が広がる。
 身体の節々が鉛のように重いのに、寒気が背筋を這い上がってくる奇妙な感覚。

(……やばいな、これ……)

 今日はもう帰ろうと決めて、椅子から立ち上がろうとした瞬間。
 視界がぐらりと歪んだ。
 平衡感覚が失われ、図書館の白い天井と、並んだ書架がメリーゴーランドのように回転する。

(あ、倒れる)

 そう思い、なんとか椅子に座り直す。
 情けなくも突っ伏すようにして、重い頭を机の冷たい天板に預けた。

 遠くで誰かがページをめくる音、ヒールの足音、そして窓の外で鳴く蝉の合唱が、水の中にいるように籠もって聞こえる。

(ちょっと休めば、なんとか歩いて帰れるかもしれない……)

 そう思った途端に、眠りの世界へ吸い込まれていくのを感じた。

 その直前、ふわり、と。
 あの澄んだ香りが、鼻先を掠めた気がした。
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