ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。
 ◇

 試験前の図書館の自習スペースは、まるで戦場のようだった。

 必修科目のレポートとテスト勉強に追われる私は、ここ数日、図書館に入り浸っている。

(……ちょっと休憩しよ)

 重たい空気が澱む閲覧室を出て、少し開けたラウンジへと向かった。

 窓の外には、梅雨明けを知らせる入道雲が湧き上がっている。
 ガラス越しでも伝わる強烈な陽射しが、床に落ちる影を色濃く焼き付けていた。

 自販機で買った冷たい炭酸飲料の缶を頬に当てて、一息つく。

(ふー、生き返る)

 緊張感が、少しほぐれた。

 元のスペースに戻る途中で、窓際の席に突っ伏している大きな背中が目に入った。
 周りの学生が忙しなくペンを動かす中、そこだけ時間が止まったように静かだった。

(……あれ。瀬川くんじゃ?)

 見間違えるはずがない。
 でも、真面目な彼がこんな場所で居眠りなんて珍しい。
 いつもなら良い姿勢で本を読んでいたり、課題を進めているのに。

 なぜか胸騒ぎがして、そっと歩み寄った。

 近づくにつれて、彼の呼吸が少し荒いことに気づく。
 伏せられた顔は、腕に隠れていて見えないけれど、首筋には玉のような汗が滲んでいた。

「瀬川くん……?」

 小さな声で呼びかけ、肩にそっと触れる。

「……っ!」

 シャツ越しに伝わってきたのは、驚くほどの熱さだった。

 私の手に反応した彼が、ゆっくりと顔を上げた。
 虚ろな瞳は、焦点が合わないまま私を映す。

 いつもは涼しげな目元が充血し、頬は不自然なほど紅潮していた。

「……森……さん?」

 カサカサに乾いた声。

「瀬川くん……すごい熱じゃない!? 大丈夫?」

 慌てて覗き込むと、彼は申し訳なさそうに眉を寄せ、力なく口を開いた。

「あー……わり。ちょっと、寝落ちしてて……大丈夫、だから」

 大丈夫なわけがない。
 彼が頭を押さえながら、グラリとよろめく。

「わっ!」

 咄嗟にその腕を掴み、身体を支えた。

 ドシリと重い、男の人の体重。
 熱い吐息が、私の腕にかかる。

 彼の香りと混じって、少し汗と、熱っぽい匂いがした。
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