ふたつの弧が、重なるとき ~元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく~【完結】
第14話
世界が熱で揺らいでいる。
真夏の暑さではなく、自分が発している熱さであることはわかっていた。
右腕を支えてくれている手の冷たさと、そこから伝わる微かな震えだけが、現実の輪郭を保たせていた。
「ごめん……重いから。一人で歩くから」
「ダメ! とりあえず、あそこのソファまで行こう?」
森さんの声が、熱に浮かされた頭に優しく響く。
ラウンジの隅にあるソファに座らせられると、彼女は「待ってて」と言い残して、走り去った。
情けない。
よりによって彼女の前で、こんな無様な姿を晒すなんて。
額に滲む汗を拭う気力もなく、僕は天井のシミをぼんやりと見つめていた。
数分後、戻ってきた彼女の手には売店の袋が握られていた。
水、スポーツドリンク、冷却シートをテキパキと取り出す。
「はい、これ。とりあえず、首の後ろ冷やして! 瀬川くん、めちゃくちゃ熱いから……」
彼女は僕の隣に座ると、躊躇うことなく冷却シートのフィルムを剥がした。
「……あ……自分でやるよ」
「いいから。じっとしてて」
彼女の言葉には、不思議な強さがあった。
僕は観念して、少し頭を下げる。
さらり、と彼女の柔らかいが僕の頬をかすめた。
ひんやりとしたシートが首筋に貼られる。
その冷たさと、彼女の指先が触れた熱さが同時に走り、背筋がゾクリと震えた。
「……ありがとう」
「お水とスポーツドリンクもあるよ。飲める?」
キャップを開けて渡してくれたペットボトルの水を、貪るように飲む。
乾いた砂漠に雨が染み込むように、水分が身体に行き渡る。
一息ついて息を吐くと、隣で森さんが心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。
その瞳には、ただただ純粋な、僕を案じる色だけが揺れていた。
「……無理、しないで」
ぽつりと、彼女が言った。
「頑張ってる瀬川くんを、いつもすごいなあって思ってるけど……身体は壊さないでね」
彼女の声が、少しだけ切な気になる。
森さんのそれは、言葉にこそしなかったが、中学時代の僕が、一心に投げ続けて肩を壊したことと重ねているように聞こえた。
「……適度な休憩って、いまだに苦手なんだよね。もっと器用になれたらいいんだけど」
「うん……」
彼女は視線を膝元に落とし、スカートの布地をぎゅっと握りしめた。
「もし、何か困ったことがあれば」
言葉を探しながら話しているのか、ゆっくり、少しずつ、紡いでいる。
「他の友達でも、……私でも。誰でもいいから。頼ってね」
少し間を空けて、彼女はまた僕を見た。
今度は、真っ直ぐに。
「私は、頼ってほしいな、って思うの。……友達、なんだし」
――『友達』。
その言葉が、熱のある身体に深く、重く染み込んだ。
恋人ではない。けれど、ただの同級生でもない。
彼女が引いてくれたその境界線は、切なくもあるけれど、今の僕には何よりも心地よい位置だった。
「……うん。ありがとう、森さん」
素直に頷くと、彼女はようやく安心したように、ふわりと笑った。
その笑顔は、中学時代にグラウンドで見た、あの太陽のような笑顔と同じだった。
熱のせいだろうか。
胸の奥が締め付けられるように痛いのは。
真夏の暑さではなく、自分が発している熱さであることはわかっていた。
右腕を支えてくれている手の冷たさと、そこから伝わる微かな震えだけが、現実の輪郭を保たせていた。
「ごめん……重いから。一人で歩くから」
「ダメ! とりあえず、あそこのソファまで行こう?」
森さんの声が、熱に浮かされた頭に優しく響く。
ラウンジの隅にあるソファに座らせられると、彼女は「待ってて」と言い残して、走り去った。
情けない。
よりによって彼女の前で、こんな無様な姿を晒すなんて。
額に滲む汗を拭う気力もなく、僕は天井のシミをぼんやりと見つめていた。
数分後、戻ってきた彼女の手には売店の袋が握られていた。
水、スポーツドリンク、冷却シートをテキパキと取り出す。
「はい、これ。とりあえず、首の後ろ冷やして! 瀬川くん、めちゃくちゃ熱いから……」
彼女は僕の隣に座ると、躊躇うことなく冷却シートのフィルムを剥がした。
「……あ……自分でやるよ」
「いいから。じっとしてて」
彼女の言葉には、不思議な強さがあった。
僕は観念して、少し頭を下げる。
さらり、と彼女の柔らかいが僕の頬をかすめた。
ひんやりとしたシートが首筋に貼られる。
その冷たさと、彼女の指先が触れた熱さが同時に走り、背筋がゾクリと震えた。
「……ありがとう」
「お水とスポーツドリンクもあるよ。飲める?」
キャップを開けて渡してくれたペットボトルの水を、貪るように飲む。
乾いた砂漠に雨が染み込むように、水分が身体に行き渡る。
一息ついて息を吐くと、隣で森さんが心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。
その瞳には、ただただ純粋な、僕を案じる色だけが揺れていた。
「……無理、しないで」
ぽつりと、彼女が言った。
「頑張ってる瀬川くんを、いつもすごいなあって思ってるけど……身体は壊さないでね」
彼女の声が、少しだけ切な気になる。
森さんのそれは、言葉にこそしなかったが、中学時代の僕が、一心に投げ続けて肩を壊したことと重ねているように聞こえた。
「……適度な休憩って、いまだに苦手なんだよね。もっと器用になれたらいいんだけど」
「うん……」
彼女は視線を膝元に落とし、スカートの布地をぎゅっと握りしめた。
「もし、何か困ったことがあれば」
言葉を探しながら話しているのか、ゆっくり、少しずつ、紡いでいる。
「他の友達でも、……私でも。誰でもいいから。頼ってね」
少し間を空けて、彼女はまた僕を見た。
今度は、真っ直ぐに。
「私は、頼ってほしいな、って思うの。……友達、なんだし」
――『友達』。
その言葉が、熱のある身体に深く、重く染み込んだ。
恋人ではない。けれど、ただの同級生でもない。
彼女が引いてくれたその境界線は、切なくもあるけれど、今の僕には何よりも心地よい位置だった。
「……うん。ありがとう、森さん」
素直に頷くと、彼女はようやく安心したように、ふわりと笑った。
その笑顔は、中学時代にグラウンドで見た、あの太陽のような笑顔と同じだった。
熱のせいだろうか。
胸の奥が締め付けられるように痛いのは。