ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。
 ◇

 瀬川くんをタクシーに乗せて見送ったあと、図書館に戻る気にはなれず、家に帰ることにした。

 大学の最寄り駅までの道を、一人で歩く。

 夕暮れの風が、火照った頬を撫でていく。
 彼を支えたときの腕の重みと、身体の熱さがまだ手のひらに残っていた。

『頼ってほしい』

 偉そうなことを言ってしまった。
 自分の気持ちすら、よくわかっていないくせに。

 でも、弱っている彼の姿を見た瞬間、胸の奥がざわついて、どうしても放っておけなかった。

 特別な存在になりたいとか、そんなおこがましいことは、思っていない。
 ただ、彼が困ったとき、苦しいときに頼れる「誰か」の一人には、なりたいと思った。

 ふと、自分の手を見つめる。

 首筋に触れたときの、肌の感触。
 思い出すと、また心臓がトクン、と跳ねた。

「……風邪、うつってないよね?」

 独り言を呟いて、自分の熱い頬を両手で包み込んだ。

 街路樹の緑が濃くなり始めた、七月の夕暮れ。
 湿ったアスファルトの匂いの中に、真夏の始まりの予感が混じっていた。
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