ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの両片思い。不器用な二人が、東京で0センチメートルになるまで~
バスのドアが開いた瞬間、むせ返るような甘い潮の香りが全身を包み込んだ。
「うわあ! 海だー!」
「あっつ! 日差し痛え!」
サークルのメンバーたちが、歓声を上げながらバスから降りていく。
東京の排気ガス混じりの空気とは違う、塩分を含んだ重たくて濃い空気が、髪にペタリと貼り付く。
空はどこまでも高く、突き抜けるような青色をしていて、白い入道雲が水平線の向こうに湧き上がっていた。
私の地元は福島の内陸なので、山はあれど、海を見るのはすごく久しぶりだった。
「美絵、早く着替え行こ! 海入りたーい!」
いずみに手を引かれ、私は民宿の更衣室へと急いだ。
脱衣所の床は、海水浴客が持ち込んでしまう砂で少しジャリジャリとしていて、海の家特有の、ゴザと湿った木の匂いがする。
私はバッグの底から、新しく買った水着を取り出した。
淡いミントグリーンの、オフショルダースタイル。
フリルがついていて、胸元や体型をあまり拾わないデザインだけれど、鏡の前で合わせると、やっぱり布面積の少なさに心細くなる。
「よしっ、可愛い! 美絵、似合ってるよ!」
着替え終わったいずみは、フルーツ柄の元気なビキニ姿で、くるりと回って見せた。
「ありがとう……でも、やっぱり恥ずかしいかも」
「えー? 肌白いし細いし、出さなきゃ損だって!」
いずみは笑い飛ばしてくれたけれど、私は自分の二の腕やお腹が頼りなくて、落ち着かない。
それに、これを瀬川くんに見られると思うと……。
昨日のメッセージを思い出し、耳が熱くなる。
『似合うと思うよ』
その言葉は嬉しかったけれど、いざ実物を前にすると、自意識過剰な自分が顔を出す。
「……やっぱり、これ羽織っていく!」
私は水着の上から、持参していた白のラッシュガードを羽織った。
薄手のパーカーのような素材で、長袖で、お尻まで隠れるタイプのものだ。
「えー、もったいない! まあ…日焼け対策も大事だし、いっか」
いずみは苦笑いしながら、私の背中をパンと叩いた。
「さ、行こ! 男子たち、もう待ってるよ!」
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