ふたつの弧が、重なるとき ~元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく~【完結】
波打ち際の引力と、0センチの夜明け

第18話

 バスのドアが開いた瞬間、むせ返るような甘い潮の香りが全身を包み込んだ。

「うわあ! 海だー!」
「あっつ! 日差し痛え!」

 サークルのメンバーたちが、歓声を上げながらバスから降りていく。

 同じ関東だけれど、行き交う車やビル群に熱せられた東京とはまた違う。
 塩分を含んだ重たくて濃い空気が、髪にペタリと貼り付いた。

 空はどこまでも高く、突き抜けるような青色をしていて、白い入道雲が水平線の向こうに湧き上がっていた。

 私の地元は福島の内陸なので、山はあれど、海を見るのはすごく久しぶりだ。

「美絵、早く着替え行こ! 海入りたーい!」

 いずみに手を引かれ、民宿の更衣室へと急いだ。

 ◇

 脱衣所の床は、海水浴客が持ち込んでしまう砂でジャリジャリとしていて、海の家特有の、ゴザと湿った木の匂いがする。

 私はバッグの底から、新しく買った水着を取り出した。
 淡いミントグリーンの、オフショルダースタイル。
 フリルがついていて、胸元や体型をあまり拾わないデザインだけれど、鏡の前で合わせると、やっぱり布面積の少なさに心細くなる。

「よしっ、可愛い! 美絵、似合ってるよ!」

 着替え終わったいずみは、「私のはどう!?」とフルーツ柄の元気なビキニ姿をくるりと回って見せた。

「ありがとう……でも、やっぱり恥ずかしいかも」

「えー? 肌白いし細いし、出さなきゃ損だって!」

 いずみは笑い飛ばしてくれたけれど、私は自分の二の腕やお腹が頼りなくて、落ち着かない。

(それに、これを瀬川くんに見られると思うと……)

 昨晩のメッセージを思い出し、耳が熱くなる。

『似合うと思うよ』

 その言葉は嬉しかったけれど、いざ実物を前にすると、自意識過剰な自分が顔を出す。

「……やっぱり、これ羽織っていく!」

 私は水着の上から、持参していた白のラッシュガードを羽織った。
 薄手のパーカーのような素材で、長袖で、お尻まで隠れるタイプのものだ。

「えーっ、もったいない! まあ……日焼け対策も大事だし、いっか」

 いずみは苦笑いしながら、私の背中をパンと叩いた。

「さ、行こ! 男子たち、もう待ってるよ!」
< 32 / 183 >

この作品をシェア

pagetop