ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの両片思い。不器用な二人が、東京で0センチメートルになるまで~
日は完全に落ち、夜の帳が静かにビーチを包み込んでいた。
バーベキューが終わり、誰かが持ってきた手持ち花火をみんなで囲んでいる。
シュボッ、という音と共に火がつき、パチパチという音を立てて小さな火花が散る。
手持ち花火を見たのは、いつぶりだろうか。
最後にやったのは、それこそ、僕が小学生のころ、少年野球チームで来た合宿の時以来かもしれない。
火薬特有の硝煙の匂いが、夜の潮風に混じって鼻腔をくすぐる。
オレンジ色の儚い光が、円陣になったみんなの顔を揺らめきながら照らし出していた。
「一年諸君、これいる人ー?ご自由にどうぞー!」
「うわー、懐かし!先輩、ありがとうございます!」
同期の男子数人で集まっていたところに、先輩が持ってきてくれたのは、水色のラムネ。
手持ち花火はそんなに数がなかったので、僕は少し離れた暗がりで、花火に盛り上がる光景を見ていた。
光の輪の中心で、美絵がしゃがみ込んで一本の線香花火を見つめている。
小さな火の玉が落ちないように、真剣な眼差しで、そしてどこか祈るような顔で。
やがて、火の玉がポトリと砂の上に落ちると、彼女は顔を上げて、いずみや他の同期と顔を見合わせて楽しそうに笑っていた。
人見知りらしい森さんだが、最近はいずみ以外の何人かの女の子とも、よく話しているのを見かけている。
男子とは、女子ほどあまり話さないようではあるが、軽い会話くらいはしているようだ。
今のところ、彼女に恋愛感情を持ってアタックしている男子は見受けられていないが……。
こんなに魅力的な人なんだ。このサークルではなくても、いつかは誰かの恋人になってしまうことはわかっている。
彼女の笑顔を見る。
花火の残像よりも鮮烈に、暗闇の中で焼き付くように輝いて見えた。
『好きというよりは、憧れに近い』
中学時代から、いや。再会してからもずっと、自分にそう言い聞かせていた。
高嶺の花である彼女が、幸せそうに笑っていれば、それでいいと。
彼女の視界の端にいられれば、それだけで十分だと。
再会してからも、そのスタンスは変わらないつもりだった。
彼女が楽しそうなら、僕も嬉しい。
彼女が困っていたら、助けたい。
見返りなんて求めていないつもりだった。
でも、今は違う。
夜の闇に溶けていく彼女の笑い声を聴きながら、僕は自分の心の奥底に渦巻く、どす黒くて、熱い感情に気づいてしまった。
(……あそこで、彼女を笑わせているのが、俺だったらいいのに)
ただ見ているだけじゃ、足りない。
彼女が笑う理由が、僕であってほしい。
彼女の隣で、同じ火花を見つめて、同じ瞬間に笑い合いたい。
彼女の視線を、他の誰でもなく、僕に向けさせたい。
「……欲張りになってるな、俺」
気の抜けたラムネを一気に流し込む。
弱い炭酸が喉を流れていくけれど、胸の奥の渇きは癒えない。
ただの同級生、いう安全地帯から一歩踏み出し、傷つくかもしれない、けれど手が届くかもしれない距離へ近づきたい。
最後の線香花火が儚く燃え尽きるのを遠くから見つめながら、僕は自分の気持ちの変化に戸惑っていた。
バーベキューが終わり、誰かが持ってきた手持ち花火をみんなで囲んでいる。
シュボッ、という音と共に火がつき、パチパチという音を立てて小さな火花が散る。
手持ち花火を見たのは、いつぶりだろうか。
最後にやったのは、それこそ、僕が小学生のころ、少年野球チームで来た合宿の時以来かもしれない。
火薬特有の硝煙の匂いが、夜の潮風に混じって鼻腔をくすぐる。
オレンジ色の儚い光が、円陣になったみんなの顔を揺らめきながら照らし出していた。
「一年諸君、これいる人ー?ご自由にどうぞー!」
「うわー、懐かし!先輩、ありがとうございます!」
同期の男子数人で集まっていたところに、先輩が持ってきてくれたのは、水色のラムネ。
手持ち花火はそんなに数がなかったので、僕は少し離れた暗がりで、花火に盛り上がる光景を見ていた。
光の輪の中心で、美絵がしゃがみ込んで一本の線香花火を見つめている。
小さな火の玉が落ちないように、真剣な眼差しで、そしてどこか祈るような顔で。
やがて、火の玉がポトリと砂の上に落ちると、彼女は顔を上げて、いずみや他の同期と顔を見合わせて楽しそうに笑っていた。
人見知りらしい森さんだが、最近はいずみ以外の何人かの女の子とも、よく話しているのを見かけている。
男子とは、女子ほどあまり話さないようではあるが、軽い会話くらいはしているようだ。
今のところ、彼女に恋愛感情を持ってアタックしている男子は見受けられていないが……。
こんなに魅力的な人なんだ。このサークルではなくても、いつかは誰かの恋人になってしまうことはわかっている。
彼女の笑顔を見る。
花火の残像よりも鮮烈に、暗闇の中で焼き付くように輝いて見えた。
『好きというよりは、憧れに近い』
中学時代から、いや。再会してからもずっと、自分にそう言い聞かせていた。
高嶺の花である彼女が、幸せそうに笑っていれば、それでいいと。
彼女の視界の端にいられれば、それだけで十分だと。
再会してからも、そのスタンスは変わらないつもりだった。
彼女が楽しそうなら、僕も嬉しい。
彼女が困っていたら、助けたい。
見返りなんて求めていないつもりだった。
でも、今は違う。
夜の闇に溶けていく彼女の笑い声を聴きながら、僕は自分の心の奥底に渦巻く、どす黒くて、熱い感情に気づいてしまった。
(……あそこで、彼女を笑わせているのが、俺だったらいいのに)
ただ見ているだけじゃ、足りない。
彼女が笑う理由が、僕であってほしい。
彼女の隣で、同じ火花を見つめて、同じ瞬間に笑い合いたい。
彼女の視線を、他の誰でもなく、僕に向けさせたい。
「……欲張りになってるな、俺」
気の抜けたラムネを一気に流し込む。
弱い炭酸が喉を流れていくけれど、胸の奥の渇きは癒えない。
ただの同級生、いう安全地帯から一歩踏み出し、傷つくかもしれない、けれど手が届くかもしれない距離へ近づきたい。
最後の線香花火が儚く燃え尽きるのを遠くから見つめながら、僕は自分の気持ちの変化に戸惑っていた。