ふたつの弧が、重なるとき ~元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく~【完結】

第20話

 日は完全に落ち、夜の帳が静かにビーチを包み込んでいた。

 バーベキューが終わり、誰かが持ってきた手持ち花火をみんなで囲んでいる。
 シュボッ、と火がつき、パチパチという音を立てて小さな火花が散る。

 花火を見たのは、いつぶりだろうか。
 最後にやったのは、小学生の頃に少年野球チームで来た合宿のとき以来かもしれない。

 火薬特有の硝煙の匂いが、潮風に混じって運ばれてくる。
 橙色の儚い光が、円陣になったみんなの顔を揺らめきながら照らしていた。


「一年諸君、これいる人ー? ご自由にどうぞー!」

「うわー、懐かし! 先輩、ありがとうございます!」

 同期の男子数人で集まっていたところに、先輩が持ってきてくれたのは、水色のラムネ。

 手持ち花火はそんなに数がなかったので、僕たちは少し離れた暗がりで、火花に盛り上がる光景を見ていた。

 光の輪の中心で、森さんがしゃがみ込んで線香花火を楽しんでいた。
 小さな火の玉に、真剣な、祈るような眼差しを向けている。

 やがてそれがポトリと砂の上に落ちると、顔を上げて、周囲と顔を見合わせて笑っていた。

 人見知りらしい彼女だが、最近はいずみ以外の女子とも、よく話しているのを見かける。
 男子とは、女子ほどは話さないものの、軽い会話くらいはしているようだ。
 今のところ、あからさまにアタックしている人物は見受けられないが――。
 こんなに魅力的な人なんだ。このサークルではなくても、いつかは誰かの恋人になってしまうことはわかっている。

 その弾ける笑顔を見る。
 花火の残像よりも鮮烈に、暗闇の中で焼き付くように輝いて見えた。


『好きというよりは、憧れに近い』

 中学時代から。いや、再会してからもずっと。
 自分にそう言い聞かせていた。

 高嶺の花である彼女の笑顔を見られたら、それだけで十分だ。
 ましてや視界の端にいられて、会話を交わす機会があるなんて、なんという幸運だろう。
 再会してからも、そのスタンスは変わらないつもりだった。

 彼女が楽しそうなら、僕も嬉しい。
 彼女が困っていたら、助けたい。
 見返りなんて求めていなかった。

 でも――今は違う。

 夜の闇に溶ける笑い声を聴きながら、自分の心の奥底に生まれた感情に気づいてしまった。

(……あそこで彼女を笑わせているのが、俺だったらいいのに)

 ただ見ているだけじゃ、足りない。
 その笑顔の理由が、僕であってほしい。
 彼女の隣で、同じ火花を見つめて、同じ瞬間に笑い合いたい。
 その視線を、他の誰でもなく、僕に向けさせたい。

(……随分と欲張りになってるな、俺)

 気の抜けたラムネを一気に流し込む。
 弱い炭酸が喉を流れていくけれど、胸の奥の渇きは満たされない。

『ただの同級生』という安全な場所から一歩踏み出し、手の届く距離へ近づきたい。
 それがたとえ、傷つく結果につながってしまったとしても。

 最後の線香花火が儚く燃え尽きるのを、遠くから見つめながら、自分の気持ちの変化に戸惑っていた。
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