ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの両片思い。不器用な二人が、東京で0センチメートルになるまで~
『姉貴には頭が上がらない』
そう言って困ったように笑う彼の顔が、脳裏に焼き付いている。
最初は、中学時代のマウンドでの印象が強くて、無口で冷静な人だと思っていた。
今では、穏やかで、私にも優しくて、どこか保護者のように接してくれる彼を知った。
でも、実はお姉さんの尻に敷かれたり、弟として走り回らされたりしていた姿もあったんだ。
私の知らない瀬川くんが、まだまだたくさんいる。
さっきの試合で感じた、真希先輩との距離感への嫉妬は、まだ胸の奥で燻っているけれど、それ以上に。
(もっと、知りたいよ)
彼の過去を、家族のことを、私の知らない彼の表情を。
格好良くないところとか、不器用なところでもいい。
いろんな色を、もっと近くで感じてみたい。
入り口から吹き込む風が、汗ばんだ首筋を冷やしていく。
隣でドリンクを飲む彼の喉仏が動くのを横目で見ながら、私は胸の奥で小さな願いを抱いていた。
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