ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの両片思い。不器用な二人が、東京で0センチメートルになるまで~
廊下に出ると、風通しのよいしんとした空気が、火照った頬に心地よかった。
古い民宿の床板が、ミシミシと音を立てる。
突き当たりの自販機コーナーの前まで来ると、いずみが私の肩をガシッと掴んで向き合った。
「美絵。自分の気持ち……整理できたの?」
いずみの真剣な瞳。
その奥から伝わる『ゆっくりでいいからね』という優しさに、私は観念して小さく頷いた。
隣では、正人くんがまだ状況を飲み込めずにオロオロしている。
私は深呼吸を一つして、蚊の鳴くような声で言った。
「……うん。好き、瀬川くんのこと……」
口に出した瞬間、心臓が跳ね上がると同時に、胸のつかえが取れたような不思議な感覚に包まれた。
「マジかよーー!!」
正人くんが頭を抱えて、でも満面の笑みで叫ぶ。
「シーッ! 声でかい!」
いずみが慌てて正人くんの口を塞ぐ。
「ぷはっ! いや、ごめん! でもマジか! ヨッシーが祥太郎を! うわー、すげえ!」
正人くんは自分のことのように興奮して、私の背中をバンバンと叩いた(ちょっと痛い)。
「言っとくけど、絶対内緒だからね! 冷やかしたりしたら承知しないから!」
いずみが釘を刺すと、正人くんはビシッと敬礼した。
「任せろ! 俺、口は堅い方だし、むしろ応援するわ! 絶対にバレないレベルで、さりげなーく協力する!」
「ほんとに……?」
「おうよ! だって祥太郎、ヨッシーには明らかに特別扱いっつーか、優しいし。全然可能性あるって!」
「……そう、かな」
瀬川くんと一番仲の良い正人くんの言葉に、少しだけ勇気が湧いてくる。
「とりあえずさ、まずは呼び方変えてみたら?」
「え?」
「いつまでもお互い苗字呼びじゃ、距離縮まらねーだろ。俺みたいにアダ名とか、下の名前とかさ」
「呼び方……」
「そうそう。まあ、タイミング見て頑張ってみなよ!」
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