ふたつの弧が、重なるとき ~元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく~【完結】
 ◇

 広間から出ると、風通しのよい廊下のしんとした空気が火照った頬に心地よかった。

 古い民宿の床板が、ミシミシと音を立てる。
 突き当たりの自販機コーナーの前まで来ると、いずみが私の肩をガシッと掴んで向き合った。

「美絵。自分の気持ち……整理できたの?」

 真剣な瞳。
 その奥から伝わる『ゆっくりでいいからね』という優しさに、小さく頷いた。

 隣では、まだ状況を飲み込めていない正人くんがオロオロしている。

 私は深呼吸を一つして、蚊の鳴くような声で言った。

「……うん、好き。瀬川くんのこと……」

 口に出した瞬間、心臓が跳ねると同時に、胸のつかえが取れたような不思議な感覚に包まれた。

「マジかよーー!!」

 正人くんが頭を抱えながら、満面の笑みで叫ぶ。

「シーッ! 声でかい!」

 いずみが慌ててその口を塞ぐ。

「……プハッ! いや、ごめん! でもマジか! ヨッシーが祥太郎を! うわー、すげえ!」

 彼は自分のことのように興奮して、私の背中をバンバンと叩いた。
 ちょっと痛い。

「言っとくけど、絶対内緒だからね! 冷やかしたりしたら承知しないから!」

 いずみが釘を刺すと、正人くんはビシッと敬礼した。

「任せろ! 俺、口は堅い方だし、むしろ応援するわ! 絶対にバレないレベルで、さりげなーく協力する!」

「ほんとに……?」

「おうよ! だって祥太郎、ヨッシーには明らかに特別扱いっつーか、優しいし。全然可能性あるって!」

「……そう、かな」

 瀬川くんと一番仲の良い彼の言葉に、少しだけ勇気が湧いてくる。

「とりあえずさ、まずは呼び方変えてみたら?」

「え?」

「いつまでもお互い苗字呼びじゃ、距離縮まらねーだろ。あだ名とか、下の名前とかさ」

「呼び方……」

「そうそう。まあ、タイミング見て頑張ってみなよ!」
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