ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの両片思い。不器用な二人が、東京で0センチメートルになるまで~
宴会場に戻り、壁際の席に座ったころには、時刻は十時を回っていた。
連日の海遊びと、さっきのカミングアウト事件の興奮から覚めた反動で、いずみは私の肩に頭を預けてスヤスヤと寝息を立て始めた。
私もまた、強烈な睡魔に襲われていた。
まぶたが鉛のように重い。
いずみを起こして、部屋に戻って寝かせてあげたい。私も布団に入りたい。
けれど――。
視界の端、少し離れた席で、瀬川くんが真希先輩たちに囲まれて話しているのが見えた。
真希先輩が笑いながら瀬川くんの背中を叩いている。
(……やだ)
このまま私が部屋に戻ったら、瀬川くんはあのまま夜遅くまで先輩たちと飲み続けるんだろうか。
私が寝ている間に、もっと仲良くなっちゃうんだろうか。
「……起きてなきゃ」
眠い目をこする。
嫉妬と、少しの独占欲が、私の瞼をこじ開けていた。
でも、ガヤガヤとした話し声が子守唄のように聞こえてくる。
意識が、波間に漂うように遠のいていく。
ふと気配を感じて目を開けると、すぐ目の前に、大きな影があった。
「……?」
しゃがみ込んで、そっとこちらを覗き込んでいる顔。
「……眠い?」
低くて優しい声が、鼓膜をくすぐる。
瀬川くんが微笑むと、目尻に優しい皺が寄る。
その顔を見たら、さっきまでの不安がスッと消えて、安心感と共に、抗えない眠気がどっと押し寄せてきた。
頭がふわふわする。
遊び疲れているせいか、それとも夢現のせいか。
普段なら恥ずかしくて絶対に言えない言葉が、口から勝手にこぼれ落ちた。
「……隣、座ってよ」
「え?」
「ここ」
私は、いずみが寄りかかっている肩のは反対側の自分の、空いている畳をポンと叩いた。
瀬川くんは驚いたように目を見開きながら、私のお願い通り、隣に座ってくれた。
距離が近い。
彼の体温が、私を包み込む。
それがまた、私をさらに眠りの世界へと誘う。
「いずみ、ここで寝ちゃったんだね」
瀬川くんが前を向きながら、小さな声で言う。
そういえば……瀬川くん。いずみのことは、もうだいぶ前から呼び捨てしている。
……いずみだけ、ずるい……。
眠くて、考えることも、子どもっぽくなる。
頭が働かなくて、本能だけで言葉を紡ぐ。
「私のことも……名前で呼んでよ……」
さっきの正人くんの提案が、頭の片隅に残っていたのかもしれない。
「……え?!」
瀬川くんが絶句して固まっているのが気配でわかる。
私は膝に顔を埋めながら、彼の方をチラッと見る。
「……だめ?」
「いや、ダメじゃ、ないけど……」
彼の狼狽える声が愛おしい。
「私は……祥ちゃん、って呼ぶ」
「……っ!?」
「ふふ……」
祥ちゃん。
口に出してみると、飴玉みたいに甘くて、転がしたくなる響きだった。
連日の海遊びと、さっきのカミングアウト事件の興奮から覚めた反動で、いずみは私の肩に頭を預けてスヤスヤと寝息を立て始めた。
私もまた、強烈な睡魔に襲われていた。
まぶたが鉛のように重い。
いずみを起こして、部屋に戻って寝かせてあげたい。私も布団に入りたい。
けれど――。
視界の端、少し離れた席で、瀬川くんが真希先輩たちに囲まれて話しているのが見えた。
真希先輩が笑いながら瀬川くんの背中を叩いている。
(……やだ)
このまま私が部屋に戻ったら、瀬川くんはあのまま夜遅くまで先輩たちと飲み続けるんだろうか。
私が寝ている間に、もっと仲良くなっちゃうんだろうか。
「……起きてなきゃ」
眠い目をこする。
嫉妬と、少しの独占欲が、私の瞼をこじ開けていた。
でも、ガヤガヤとした話し声が子守唄のように聞こえてくる。
意識が、波間に漂うように遠のいていく。
ふと気配を感じて目を開けると、すぐ目の前に、大きな影があった。
「……?」
しゃがみ込んで、そっとこちらを覗き込んでいる顔。
「……眠い?」
低くて優しい声が、鼓膜をくすぐる。
瀬川くんが微笑むと、目尻に優しい皺が寄る。
その顔を見たら、さっきまでの不安がスッと消えて、安心感と共に、抗えない眠気がどっと押し寄せてきた。
頭がふわふわする。
遊び疲れているせいか、それとも夢現のせいか。
普段なら恥ずかしくて絶対に言えない言葉が、口から勝手にこぼれ落ちた。
「……隣、座ってよ」
「え?」
「ここ」
私は、いずみが寄りかかっている肩のは反対側の自分の、空いている畳をポンと叩いた。
瀬川くんは驚いたように目を見開きながら、私のお願い通り、隣に座ってくれた。
距離が近い。
彼の体温が、私を包み込む。
それがまた、私をさらに眠りの世界へと誘う。
「いずみ、ここで寝ちゃったんだね」
瀬川くんが前を向きながら、小さな声で言う。
そういえば……瀬川くん。いずみのことは、もうだいぶ前から呼び捨てしている。
……いずみだけ、ずるい……。
眠くて、考えることも、子どもっぽくなる。
頭が働かなくて、本能だけで言葉を紡ぐ。
「私のことも……名前で呼んでよ……」
さっきの正人くんの提案が、頭の片隅に残っていたのかもしれない。
「……え?!」
瀬川くんが絶句して固まっているのが気配でわかる。
私は膝に顔を埋めながら、彼の方をチラッと見る。
「……だめ?」
「いや、ダメじゃ、ないけど……」
彼の狼狽える声が愛おしい。
「私は……祥ちゃん、って呼ぶ」
「……っ!?」
「ふふ……」
祥ちゃん。
口に出してみると、飴玉みたいに甘くて、転がしたくなる響きだった。