ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの両片思い。不器用な二人が、東京で0センチメートルになるまで~
宴会の後そのまま眠れるようにメイクを落としているのか、いつもよりあどけないその顔に、ふと中学時代の彼女の面影が重なった。
「祥ちゃん」
そんな彼女から急に放たれたその呼び名の破壊力は、僕の思考回路を完全にショートさせるのに十分だった。
心臓が、肋骨を蹴破りそうなほど暴れている。
顔が熱いなんてもんじゃない。爆発しそうだ。
隣にいる彼女を見ると、トロンとした瞳で僕を見て、無防備に笑っている。
か、可愛すぎる……。
反則だ。こんな無防備な姿、僕以外に見せないでほしい。
口元が勝手に緩んでしまい、手で覆って隠す。
「……わかった。じゃあ……美、絵」
ぎこちない声でなんとか答えると、彼女は満足そうに「うん」と頷いた。
そして。
コトン。
僕の右肩に、重みが乗った。
「え……」
見ると、彼女が僕の肩に頭を預けて、完全に目を閉じていた。
スー、スー。と、規則正しい寝息が聞こえてくる。
栗色の髪が、僕の首筋にさらりとかかって、くすぐったい。
彼女の体温が、肩を通して直接伝わってくる。
全身が硬直した。
動けない。動きたくない。
この瞬間が、永遠に続けばいいのに。
「おーい祥太郎、お前……リア充かよー?」
遠くの席から、先輩たちがニヤニヤしながら茶化してき返す言葉が思いつかず、力なく笑って誤魔化す。
この状況……どうすればいいんだ。
起こすのは可哀想だし、部屋に連れて帰るのも、今動いたら起きてしまうかもしれない。
彼女の寝顔を見下ろす。
長いまつ毛が頬に影を落とし、唇が小さく開いている。
幸せそうだ。
(……まあ、いいか)
僕も、強烈な幸福感と共に、急に睡魔が襲ってきた。
この温もりに触れていたら、もう何も考えられなくなった。
彼女の頭に自分の頭をそっと乗せる……のは、さすがに、憚られるので。
首を下に向け、僕はゆっくりと目を閉じた。
宴会場のざわめきが、遠い波の音のように心地よく聞こえる。
福島から遠く離れたこの場所で、僕たちの距離は、肩と肩が触れ合う0センチメートルになっていた。
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