ふたつの弧が、重なるとき ~元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく~【完結】
 ◇

 宴会後そのまま眠れるようにメイクを落としているのか、いつもより少しあどけない顔に、ふと中学時代の面影を感じた。

「祥ちゃん」

 そんな彼女から急に放たれた呼び名の破壊力は、僕の思考回路を完全にショートさせるのに十分だった。

 心臓が、肋骨を蹴破りそうなほど暴れている。
 顔が熱いなんてもんじゃない。爆発しそうだ。

 目を向けると、トロンとした瞳で僕を見て、無防備に笑っている。

(か、可愛すぎる……)

 反則だ。
 こんな姿、絶対に僕以外には見せないでほしい。

 顔全体が緩みまくってしまい、せめて口元だけはと、手のひらで覆って隠す。

「……わかった。じゃあ……美、絵」

 ぎこちない声でなんとか応えると、彼女は満足そうに「うん」と頷いた。

 そして。

 ――コトン。

 右肩に、重みが乗った。

「え……」

 見ると、僕に頭を預けて、完全に目を閉じていた。
 スー、スー。と、規則正しい寝息が聞こえてくる。

 栗色の髪が首筋にさらりとかかって、くすぐったい。
 肩越しに彼女の体温が伝わってくる。

 全身が硬直した。
 動けない。動きたくない。
 この瞬間が、永遠に続けばいいのに。

「おーい、祥太郎。お前……リア充かよー?」

 遠くの席から、先輩たちがニヤニヤしながら茶化してきたが、返す言葉が思いつかず、力なく笑って誤魔化した。

 この状況……どうすればいいんだ。
 可哀想だけど起こしてあげて、部屋に帰って寝るよう促すべきなんだろうけど……。

 身体を動かさないように気をつけながら、彼女の寝顔に視線だけを向ける。
 長いまつ毛が頬に影を落とし、唇が小さく開いていた。
 なんだか、幸せそうだ。

(……まあ、いいか)

 溶けそうな幸福感とともに、僕にも睡魔が襲ってきた。
 この温もりに触れていたら、もう何も考えられなくなった。

 彼女の頭に、自分の頭を乗せる……のは、さすがに、憚られるので。
 首を下に向け、ゆっくりと目を閉じた。

 宴会場のざわめきが、遠い波の音のように心地よく聞こえる。

 故郷から遠く離れたこの場所で、僕たちの距離は、肩と肩が触れ合う0センチメートルになっていた。
< 43 / 183 >

この作品をシェア

pagetop