ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。

第31話

 いずみとお喋りしていると、いつも時間があっという間に過ぎていく。

 ミーティングルームには、だんだんと人が集まってきた。
 合宿以来、久しぶりに顔を合わせる面々も多く、それぞれ思い出話に花が咲いている。

 廊下から、ワイワイと騒がしい声が近づいてきた。
 そこには、正人くんの笑い声が混ざっているように聞こえる。

 ガチャリと扉が開き、正人くんを先頭に、サークルの同期の男の子たちが数人、入ってきた。
 私は反射的に、その最後尾を探した。

(――あ……いた)

 長身の彼が、扉の枠を少し潜るようにして入ってくる。

 濃いグリーンの前開きシャツを羽織っている。
 この前、河川敷で会った時よりも、さらに少し日焼けした肌。
 前髪が少し伸びていて、自然に分けられている。
 額がのぞくヘアスタイルは、いつもよりずっと大人っぽくて、ドキッとするほど色気を纏っていた。

 目を離せずに見つめていたら、視線がぶつかった。

 私に気づいた彼は、照れくさそうに少し会釈しながら、小さく口を動かした。

「……うす」

 掠れた低い声。
 それだけで、私の周りの空気は一瞬にして彼の色に染まり、酸素が薄くなったような錯覚に陥る。

「お……おはよう!」

(……ちょっと! もうお昼過ぎてるのに、『おはよう』って……)

 慌てながら咄嗟に返した自分の言葉に、心の中で激しくツッコミを入れる。

 彼はそのまま男の子たちと一緒に、少し離れた窓際の席へと向かった。
 彼が通り過ぎた後の風を感じる。

 パイプ椅子に座り、正人くんと何かを話し始めたことを横目で確認すると、いずみが私の脇腹をツンツンと突いた。

「……ちょっと、美絵」

「ひゃっ、なに?」

 声を潜め、口元を手で隠しながら、ニヤニヤと笑いかけてくる。

「なんかさ〜、祥太郎くんも美絵への『好き』が、ダダ漏れてない!?」

「え!?」

「美絵に挨拶した時の顔! なぜか照れてたし。あれは好きな子に会った時の顔なんじゃないの!?」

 そう言って、キャーキャーと小声ではしゃぐ。
 私の頬は、またすぐに熱くなる。

「も、もう! 期待しちゃうからやめて……!」

 手でパタパタと顔を扇ぎながら、必死で否定の言葉を口にする。

 けれど、ふとした瞬間に、また彼と目が合う。
 すぐに逸らされたけれど、いずみの言う通り、その顔は少し照れているように見えた。

(……期待、しちゃうよ)
< 52 / 183 >

この作品をシェア

pagetop