ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの両片思い。不器用なふたりが、東京で0センチメートルになるまで。~

第31話

 いずみとお喋りをしていると、いつも時間があっという間に過ぎていく。

 ミーティングルームには、だんだんと人が集まってきた。
 合宿以来、久しぶりに顔を合わせる面々も多く、それぞれ思い出話に花が咲いている。

 廊下から、ワイワイと騒がしい声が近づいてきた。
 そこには、正人くんの笑い声が混ざっているように聞こえる。

 ガチャリと扉が開き、正人くんを先頭に、サークルの同期の男の子たちが数人、入ってきた。
 私は反射的に、その最後尾を探した。

(――あ……いた)

 長身の彼が、扉の枠を少し潜るようにして入ってくる。

 濃いグリーンの前開きシャツを羽織っている。この前会った時よりも、少し日焼けした肌。
 前髪が少し伸びていて、自然に分けられている。
 額が覗くそのヘアスタイルは、いつもよりずっと大人っぽくて、ドキッとするほど色気を纏っていた。

 目を離せずに見つめていると、彼と視線がぶつかった。

 私に気づいた彼は、照れくさそうに少し会釈しながら、小さく口を動かした。
「……うす」
 掠れた低い声。
 それだけで、私の周りの空気が一瞬にして彼の色に染まり、酸素が薄くなったような錯覚に陥る。

「……お、おはよう!」

(ちょっと!もうお昼過ぎてるのに、『おはよう』って……)
 慌てながら咄嗟に返した自分の言葉に、心の中で激しくツッコミを入れる。

 私やいずみと軽い挨拶を交わした祥くんは、男の子たちと一緒に、少し離れた窓際の席へと向かった。

 彼が通り過ぎた後の風を感じる。

 彼がパイプ椅子に座り、正人くんと何かを話し始めたのを横目で確認すると、隣でいずみが私の脇腹をツンツンと突いた。
「……ちょっと、美絵」
「ひゃっ、なに?」

 いずみは声を潜め、口元を手で隠しながら、ニヤニヤと笑いかけてきた。

「なんかさ〜、祥太郎くんも美絵への『好き』が、ダダ漏れてない!?」
「え!?」
「美絵に挨拶した時の顔! なぜか照れてたし。あれは好きな子に会った時の顔なんじゃないの!?」
 キャーキャーと小声ではしゃぐいずみの言葉に、私の顔は再び沸騰したように熱くなった。
「も、もう! 期待しちゃうからやめて……!」
 パタパタと手で顔を扇ぎながら、私は必死で否定の言葉を口にする。

 けれど、視線の先で、ふとした瞬間にこちらをチラリと見る彼と、また目が合う。
 すぐに逸らされたけれど、やはり彼の顔が照れているように見えた。

(……期待、しちゃうよ)

 胸の奥で、甘くて切ない感情がチリチリと燃え上がる。

 真希さんの噂に焦っていた私の心に、ほんの少しだけ、春のような温かい風が吹き込んだ。
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