ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。
◇
前で幹事の先輩が十月の文化祭について説明している。
軋む椅子に浅く腰掛け、その話に耳を傾けるフリをしながら、頭の中はさっきの出来事に占拠されていた。
『お……おはよう!』
午後をとうに過ぎているのに、慌てた様子でそう返してきた美絵の顔。
思い出すだけで、胸の奥に、苦しくなるほどの甘い痛みが走る。
合宿での無防備な寝顔も、河川敷で見せてくれたまっすぐな笑顔も、もちろん可愛かったけれど。
ふとした瞬間に見せるあの動揺した表情は、どうしようもなく僕の心を乱す。
――ブブッ。
長机の上で、横にいる正人のスマートフォンが低く短い振動音を立てた。
画面が明るくなり、通知がポップアップする。
それを手に取り、幹事の先輩からはあまり見えない死角で内容を一目確認した正人は少し離れた席にいるいずみの方を向いた。
その視線を追うと、彼女もまた、こちら――正確には、正人の方――をチラッと見て、小さく頷いているように見えた。
(……ん? 何だ、今のアイコンタクト)
二人が秘密のやり取りをしているようで、少し不思議に思う。
すると、正人が身を寄せてきて、周囲を気にするように声を潜めて話しかけてきた。
「あのさ、祥太郎。今日この後、バイトないよな?」
「ん? ああ、今日は休みだけど」
「よし。ミーティング終わったら、二人で飯行かね?」
「飯?」
いつもなら、帰り道に駅へ向かう途中で「腹減った。ラーメン食ってかね?」みたいに適当なノリで誘ってくるのに、やけに改まっている。
違和感を覚えつつも、「別にいいけど」と了承すると、正人は「よしっ」と机の下で小さくガッツポーズをした。
ホワイトボードを叩く乾いた音が鳴り、先輩が大きな文字を書き終えた。
「ということで! 今年の文化祭のサークルの出し物は、『それぞれ好きな、または経験したスポーツのユニフォームを着ながら、鈴カステラ屋さん』に決定しまーす!」
拍手が湧き起こる。
スポーツ観戦サークルらしい、手軽かつ賑やかな企画だ。
周りの部員たちが「俺、サッカーのレプリカユニフォーム着よ」「じゃあ私はテニスウェアかな」と盛り上がる中――僕の思考は再び別の方向へと滑り出していた。
美絵は……何を着るんだろうか。
真っ先に思い浮かんだのは、中学時代にグラウンドで見かけていた、陸上部のスポーティーなユニフォーム姿。
あの太陽の下で弾けるように笑っていた、眩しい記憶が鮮明に呼び起こされる。
……いや、待て。あれはまずい。
布面積が少ないから、他のやつに見てほしくないし、僕自身も顔の原型を保てる気がしない。
今は野球観戦が好きだって言ってたし……野球のユニフォームとか?
プロ野球のユニフォームをダボっと着こなす姿を想像してみる。
それはそれで、破壊力が凄まじい。……絶対に、確実に、可愛い。
鈴カステラを焼きながら微笑む彼女の姿をぼーっと想像していたら、口元がまた緩みそうになり、慌てて手のひらで覆った。
前で幹事の先輩が十月の文化祭について説明している。
軋む椅子に浅く腰掛け、その話に耳を傾けるフリをしながら、頭の中はさっきの出来事に占拠されていた。
『お……おはよう!』
午後をとうに過ぎているのに、慌てた様子でそう返してきた美絵の顔。
思い出すだけで、胸の奥に、苦しくなるほどの甘い痛みが走る。
合宿での無防備な寝顔も、河川敷で見せてくれたまっすぐな笑顔も、もちろん可愛かったけれど。
ふとした瞬間に見せるあの動揺した表情は、どうしようもなく僕の心を乱す。
――ブブッ。
長机の上で、横にいる正人のスマートフォンが低く短い振動音を立てた。
画面が明るくなり、通知がポップアップする。
それを手に取り、幹事の先輩からはあまり見えない死角で内容を一目確認した正人は少し離れた席にいるいずみの方を向いた。
その視線を追うと、彼女もまた、こちら――正確には、正人の方――をチラッと見て、小さく頷いているように見えた。
(……ん? 何だ、今のアイコンタクト)
二人が秘密のやり取りをしているようで、少し不思議に思う。
すると、正人が身を寄せてきて、周囲を気にするように声を潜めて話しかけてきた。
「あのさ、祥太郎。今日この後、バイトないよな?」
「ん? ああ、今日は休みだけど」
「よし。ミーティング終わったら、二人で飯行かね?」
「飯?」
いつもなら、帰り道に駅へ向かう途中で「腹減った。ラーメン食ってかね?」みたいに適当なノリで誘ってくるのに、やけに改まっている。
違和感を覚えつつも、「別にいいけど」と了承すると、正人は「よしっ」と机の下で小さくガッツポーズをした。
ホワイトボードを叩く乾いた音が鳴り、先輩が大きな文字を書き終えた。
「ということで! 今年の文化祭のサークルの出し物は、『それぞれ好きな、または経験したスポーツのユニフォームを着ながら、鈴カステラ屋さん』に決定しまーす!」
拍手が湧き起こる。
スポーツ観戦サークルらしい、手軽かつ賑やかな企画だ。
周りの部員たちが「俺、サッカーのレプリカユニフォーム着よ」「じゃあ私はテニスウェアかな」と盛り上がる中――僕の思考は再び別の方向へと滑り出していた。
美絵は……何を着るんだろうか。
真っ先に思い浮かんだのは、中学時代にグラウンドで見かけていた、陸上部のスポーティーなユニフォーム姿。
あの太陽の下で弾けるように笑っていた、眩しい記憶が鮮明に呼び起こされる。
……いや、待て。あれはまずい。
布面積が少ないから、他のやつに見てほしくないし、僕自身も顔の原型を保てる気がしない。
今は野球観戦が好きだって言ってたし……野球のユニフォームとか?
プロ野球のユニフォームをダボっと着こなす姿を想像してみる。
それはそれで、破壊力が凄まじい。……絶対に、確実に、可愛い。
鈴カステラを焼きながら微笑む彼女の姿をぼーっと想像していたら、口元がまた緩みそうになり、慌てて手のひらで覆った。